本研究では,都市ガスの付臭剤の臭質に望まれる要件のうち「嗅覚疲労を起こしにくい」という点に着目し,嗅覚疲労を「臭気の持続提示中に生じる臭質の同定不能状態」と定義した上で,ガス会社がユーザーに対して都市ガスの付臭剤における嗅覚の時間依存性に関する有益な情報提供を行うことを目指した.まず,都市ガスの付臭剤の主成分であるターシャリーブチルメルカプタン(以後,TBM)を用いて持続提示臭気に対する感覚的強度の実時間評定を実施した.感覚的強度を基に嗅覚疲労率を算出し,TBMにおける嗅覚疲労率の時系列変化を近似式で表したところ,臭気を嗅ぎ始めてから2分が経過するとユーザーの約50%に嗅覚疲労が生じることが示された.続いて,TBMと3種類の日常生活臭の間で嗅覚疲労率の時系列変化の動態および近似式の時定数を比較したところ,日常生活臭に比べてTBM が著しく嗅覚疲労を生じやすいとは言えなかったことから,TBMは都市ガスの付臭剤に適した臭気物質であることが示唆された.