におい・かおり環境学会誌
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特集(嗅覚のしくみに関する研究最前線)
特定時期のにおい入力の有無が新生した細胞の生死を決定する
菊田 周
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2023 年 54 巻 2 号 p. 127-131

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抄録

嗅上皮は外界からの有害物質やウイルスによって暴露された環境にあるため容易に傷害を受ける.嗅上皮に存在する嗅細胞は,終生に渡り再生するため,傷害を受けても新しく生まれた嗅細胞が,嗅覚機能を補うことができれば嗅覚はいずれ元に戻り,嗅上皮の恒常性は維持される.しかし,におい入力が新生嗅神経の分化・成熟にどのように影響を与え,嗅上皮の恒常性維持に関わるのかについては十分に解明されていなかった.成体マウスの嗅上皮を傷害したあとに新生する嗅細胞に着目すると,嗅細胞の分化・成熟過程はにおい入力に強く依存しているのが観察できる.嗅上皮は傷害を受けても,幹細胞から新しい嗅細胞が産生され28日程度で嗅上皮の組織修復は完成する.しかし,嗅上皮の修復過程で,新生した嗅細胞がにおい入力を受けないと嗅上皮修復は不完全となる.特に嗅細胞は生後7~14日ににおい入力に依存した細胞死への感受性が亢進しており,この時期ににおい入力を受けないと未熟な嗅細胞は成熟できずに細胞死に陥る.嗅上皮の恒常性維持において,生後7~14日の嗅細胞の生存が重要な役割を果たしている.

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© 2023 (社)におい・かおり環境協会
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