自閉症スペクトラム研究
Online ISSN : 2434-477X
Print ISSN : 1347-5932
巻頭言
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近藤 裕彦
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2020 年 17 巻 2 号 p. 1

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抄録

今回の17巻2号は、基礎研究が原著2 篇、資料1 篇、調査報告1 篇、実践的な研究論文として実践研究3篇、実践報告3篇、合わせて厚めの10篇をお届けします。 久々の原著はどちらも実験研究が掲載されました。このうち鏡原らの論文は、他者にpositive な印象を与える非言語コミュニケーションを取り上げ、表情やうなずきが自閉スペクトラム症(ASD)者に乏しいことを明らかにした研究です。初対面の方との面接という比較的自然な状況下の知見であることから、今後は実践への応用が期待されるでしょう。富士本・安達は、ASD成人の身体運動や自己身体の認識における視覚情報と体性感覚情報の統合について検証しています。それぞれ図形の描画課題と腕の触刺激の位置弁別課題を用いた結果、ASD成人は、視覚情報が得られずに体性感覚情報のみでフィードバックすると運動修正が困難なことや、身体表象の明確さに個人差の大きいことが示唆されました。 資料及び調査報告として、2つの調査データが提出されました。原口らは、全国規模でペアレントメンターの養成と活動の実態調査を行ない、都道府県と政令指定都市での違いや課題を検討しています。岩田は、東京都の子育て世代包括支援センターと子ども家庭支援センターにおける支援内容を調査し、特に「グレーゾーン」の母親に対する困り感が顕著とのことでした。いずれも、各自治体で取り組みを進めていくための有効な参考指標となることでしょう。 一方で実践研究に目を向けると、河村は複数の事例から成る小学校特別支援学級の漢字学習の取り組みの中で、単に筆記回数を増やすだけでは効果がみられないと述べています。さらに、小野島らの論文と植田・松岡の論文は単一の事例によるものです。前者は、知的障害を伴うASD 児に大学のセッションルームで身につけた行動を家庭へ般化していった取り組みを示しています。後者は不適切な発言をするASD 成人を支援する福祉事業所職員4 名へのコンサルテーションの研究です。当事者の不適切な発言そのものに直接対応するのではなく、業務を遂行する声かけをしたり、適切な行動をしたら称賛するという提案が一定の効果をもたらし、改善に向かった経過が具体的に記されています。 実践報告について、綿引らは、知的障害はないが、身体的に不器用な学齢期ASD児2 名について、投動作の特徴と介入効果の検討を行ないました。次に伊藤久志の論文は、知的障害を伴い、特別支援学校中等部に通う自閉症児にイントラバーバル反応を活用した指の名称の指導、また、伊藤功・青山の論文は特別支援学校高等部に在籍する知的障害を伴う自閉症児の着替え指導に前課題提示法を活用した取り組みを紹介したものです。 最後に、掲載された実践内容を振り返ると、支援環境の調整・整備はもちろん、適切なアセスメントや支援の蓄積に基づく事例検討の重要性を改めて認識したところです。

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© 2020 NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
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