自閉症スペクトラム(ASD)者の就労には多くの困難や課題が指摘されているが、彼らの困りごとや課題の把握方法の確立は十分でない。本研究では、就労者を対象に、ASD傾向に関連した困り感を測定する尺度の信頼性、妥当性を検証した。具体的には、高橋(2012)によって大学生を対象に開発された統合版困り感尺度に含まれるASDに関連した困り感を測定する下位尺度を就労者に実施し、因子構造の確認、信頼性、妥当性の確認を行った。842名のフルタイム就労者(女性=426, 男性=416)から得られたデータに対して探索的因子分析および確認的因子分析を行った結果、1因子構造に対するデータの適合は良好であり、項目内容から「就労者ASD 困り感」と名づけた。また、自閉症スペクトラム指数(AQ)、精神的健康度(K10)、孤独感(UCLA Loneliness Scale)との相関分析を行った結果、各尺度との相関関係が見いだされた。以上より、就労者ASD困り感尺度は就労者のASD に関連した困り感の測定に使用可能であることが示された。