Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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A Survey On The Present Status about Required Time and Recognition of Supports for Managers to Prepare A Work Timetable in The Medical Treatment and Supervision Act Ward
Hiroto AdachiSachie NakamuraMasato NagayoshiNoriko Okamura
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2021 Volume 30 Issue 1 Pages 59-65

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Ⅰ  はじめに

看護師の勤務予定は,看護師一人一人の出勤日や労働日数,人員配置などが記された勤務計画表(以下,勤務表)にまとめられ,多くは看護師長などの病棟管理者によって作成される.勤務表によって看護職の労働状況が把握されるため,勤務表作成は看護職の労働管理や,看護師個人の安全および健康を守るための重要な業務である.

看護師の勤務表作成に関して,勤務表作成基準の有無や作成に関する支援・教育(日本看護協会,2010),作成時間や苦慮(大鳥・横山・開田,2009),勤務表作成の困難さ(池上・相澤・大倉,1995)などの実態が示されている.また,看護管理者の業務の中で,勤務表作成業務における主観的仕事時間が最も長かったと報告されている(富永・小田,2017).

「心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等の法律(平成15年法律第110号)」(以下,医療観察法)病棟では,各種治療プログラムに関する業務や処遇対象者への外出・外泊プログラム時の院外付き添い業務などが看護業務に含まれ,各プログラム担当看護師が業務を遂行できるよう勤務が考慮される.また,配置看護師数が多いため,他科病棟よりも多くの看護師個人のスキルや勤務希望等の条件を調整しなければならない.医療観察法病棟管理者業務として勤務表作成時の配慮については示されている(日本精神科病院協会・国立病院機構,2016)が,病棟の特徴を踏まえた勤務表作成の教育がなされているかどうかは不明である.

一般科病棟等での調査は散見されるが,医療観察法病棟管理者が勤務表作成にどの程度時間を費やし,どのような支援の下で作成しているかについては明らかにされていない.そこで,医療観察法病棟における勤務表作成の実態を明らかにすることを目的として調査を実施することとした.本研究によって,医療観察法病棟の勤務表作成に関する現況を把握することができ,必要な支援について検討できると考える.

なお,本研究における「勤務計画表(勤務表)」は,看護職員の出勤日や労働日数,人員配置等について記載された表とする.また,「病棟管理者」は,普段病棟の勤務計画表を作成しており,看護師長等の病棟を管理する責任者の立場にある者とする.

Ⅱ  研究方法

1. 研究デザイン

量的記述的研究

2. 対象者

全国にある医療観察法に基づく指定入院医療機関34病棟(32施設)のうち,医療観察法小規格指定入院病床併設型病棟として運営されている4病棟(4施設)を除いた30病棟(28施設)に勤務する病棟管理者30名程度とした.

3. データ収集方法

2017年12月~2018年2月の期間で,郵送自己記入式質問紙調査を実施した.本研究の質問紙は,中村・永吉・渡辺(2017)が作成した質問紙および日本看護協会(2010)の実態調査の質問項目を参考に研究者間で検討し作成した.医療観察法病棟で勤務表作成経験のある者3名にパイロットテストを行い,作成した質問紙の回答所要時間や質問項目内容について確認を行った.質問項目は,対象者の属性に関する項目,勤務表作成における支援や教育に関する項目,勤務希望に関するルールの有無に関する項目,勤務表作成に費やす時間と勤務表作成ソフトの利用に関する項目,勤務表作成に対する思い(自由記述)とした.

4. データ分析方法

データ化された質問紙の情報を,Microsoft Excel 2016を用いて単純集計を行った.また勤務表作成に対する思いの内容は,一文一意味となるものをコードとして意味内容の類似性と相違性に沿ってサブカテゴリー化し,さらにそれらの意味内容の類似性と相違性に沿ってカテゴリー化した.

Ⅲ  倫理的配慮

本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則り,新潟県立看護大学倫理委員会の承認(承認番号017-9)と学長の許可を得て実施した.対象者には,研究目的,方法,参加の自由,研究参加の拒否・中断による不利益がないこと,個人情報や資料・情報の保管および廃棄の方法,対象者の負担や予測されるリスクと対策および利益などに関して文書で説明し,質問紙の返送をもって同意を得た.

Ⅳ  結果

30病棟(28施設)の病棟管理者に質問紙を配布し,回収数は26部(回収率:86.7%)であった.回収した質問紙のうち2部は回答内容がほぼ同一であり,自由記述の内容まで酷似していた.そのため研究者間で協議し,同一人物が返送したものと判断して1部を除いた.結果,25部(有効回答率:83.3%)を分析対象とした.部分的な欠損は「無回答」として処理した.なお,「年齢」の項目で20歳代という回答があったが,スタッフナースでの精神科勤務年数や医療観察法経験年数,勤務表作成年数などに対する回答との整合性を考慮し「不明」とした.

1. 対象者の属性と経験ならびに病棟の特性(表1
表1 対象者の属性と経験ならびに病棟の特性(n = 25)
n %
対象者属性
性別 12 48.0
9 36.0
無回答 4 16.0
年齢 20歳代 0 0.0
30歳代 0 0.0
40歳代 9 36.0
50歳代 15 60.0
不明 1 4.0
スタッフナースでの経験年数
精神科経験年数 1年未満 4 16.0
1年以上5年未満 1 4.0
5年以上10年未満 3 12.0
10年以上15年未満 2 8.0
15年以上20年未満 7 28.0
20年以上25年未満 4 16.0
25年以上30年未満 2 8.0
30年以上 2 8.0
医療観察法経験年数 1年未満 8 32.0
1年以上5年未満 10 40.0
5年以上10年未満 7 28.0
10年以上15年未満 0 0.0
勤務表作成経験年数
勤務表作成経験年数 1年未満 1 4.0
1年以上5年未満 5 20.0
5年以上10年未満 11 44.0
10年以上15年未満 8 32.0
医療観察法病棟での勤務表作成経験年数 1年未満 2 8.0
1年以上5年未満 20 80.0
5年以上10年未満 2 8.0
10年以上15年未満 1 4.0
司法精神医療等人材養成研修の受講経験 23 92.0
2 8.0
病棟の特性
病棟の病床数 33床 14 56.0
小規模 11 44.0
勤務体制 2交代 5 20.0
3交代 16 64.0
2交代と3交代の混合 3 12.0
無回答 1 4.0
男性スタッフの割合 2割未満 0 0.0
2割以上3割未満 0 0.0
3割以上4割未満 4 16.0
4割以上5割未満 6 24.0
5割以上6割未満 5 20.0
6割以上7割未満 10 40.0
7割以上8割未満 0 0.0

性別は男性が12名(48.0%),年齢は50歳代が15名(60.0%)であり,司法精神医療等人材養成研修の受講経験がある者は23名(92.0%)であった.勤務体制は3交代と回答した者が16名(64.0%)であった.

2. 勤務表作成における支援や教育

「医療観察法以外の病棟でこれまでに受けた支援や教育」(複数回答)では,“勤務表作成マニュアル”が12名(48.0%),“個別指導”が22名(88.0%),“相談相手となる担当者の明示”が9名(36.0%),“その他”が1名(4.0%)であり,支援や教育を受けていない者はいなかった.「医療観察法病棟でこれまでに受けた支援や教育」(複数回答)では,“個別指導”が17名(68.0%),“勤務表作成マニュアル”ならびに“相談相手となる担当者の明示”が7名(28.0%),支援や教育を受けていない者が4名(16.0%)であった.「あった方がよいと思う支援や教育」(複数回答)では,“医療観察法勤務表作成マニュアル”が12名(48.0%),“個別指導”が11名(44.0%),“意見交換会・勉強会”が13名(52.0%),“病棟管理に関する研修会”が12名(48.0%)であった.“その他”が3名(12.0%)であり,うち2名(8.0%)は“支援や教育は必要ない”という回答であった.

3. 勤務希望に関するルールの有無(表2
表2 勤務希望に関するルールの有無(n = 25)
n %
1ヵ月希望日数上限 あり 15 60.0
なし 9 36.0
無回答 1 4.0
休み以外の希望 あり 22 88.0
なし 3 12.0
土日連休希望の上限 あり 7 28.0
なし 15 60.0
無回答 3 12.0
夏季休暇に関する勤務希望のルール あり 11 44.0
なし 13 52.0
無回答 1 4.0
特定日の希望人数上限 あり 3 12.0
なし 22 88.0
男性看護師の人数に関するルール あり 20 80.0
なし 5 20.0
治療プログラムに関する勤務希望のルール あり 5 20.0
なし 19 76.0
無回答 1 4.0
外出・外泊の人員に関するルール あり 18 72.0
なし 5 20.0
無回答 2 8.0
CPA※1・MDT会議※2に関する勤務希望のルール あり 10 40.0
なし 12 48.0
無回答 3 12.0

※1CPA:Care Program Approach(ケア・プログラム・アプローチ)

※2MDT:Multi disciplinary Team(多職種チーム)

「1ヵ月希望日数上限」では,“あり”が15名(60.0%),“なし”が9名(36.0%),“無回答”が1名(4.0%)であった.また,「休み以外の希望」では,“あり”22名(88.0%),“なし”が3名(12.0%)であった.さらに,「男性看護師の人数に関するルール」では,“あり”が20名(80.0%),“なし”が5名(20.0%)であった.

4. 勤務表作成所要時間と勤務表作成ソフトの利用(表3
表3 勤務表の作成に費やす時間と勤務表作成ソフトの利用(n = 25)
n %
勤務表作成所要時間 3H未満 3 12.0
3H以上4H未満 0 0.0
4H以上5H未満 1 4.0
5H以上6H未満 1 4.0
6H以上7H未満 2 8.0
7H以上8H未満 3 12.0
8H以上9H未満 0 0.0
9H以上10H未満 2 8.0
10H以上11H未満 0 0.0
11H以上12H未満 1 4.0
12H以上 11 44.0
無回答 1 4.0
全作成所要時間のうち
正規の勤務時間以外の作成所要時間
なし 3 12.0
1H未満 0 0.0
1H以上2H未満 1 4.0
2H以上3H未満 0 0.0
3H以上4H未満 7 28.0
4H以上5H未満 4 16.0
5H以上 9 36.0
無回答 1 4.0
自宅持ち帰りでの作業の有無 あり 9 36.0
なし 15 60.0
無回答 1 4.0
勤務表作成ソフト利用の有無 あり 4 12.0
なし 20 80.0
無回答 1 8.0
勤務表作成ソフト使用の割合 すべて手書き(ソフト利用なし) 17 68.0
2割未満 0 0.0
2割以上4割未満 1 4.0
4割以上6割未満 0 0.0
6割以上8割未満 0 0.0
8割以上 2 8.0
全てソフト 2 8.0
無回答 3 12.0

「勤務表作成所要時間」では,“12時間以上”費やす者が11名(44.0%)であった.「勤務表作成ソフトの使用割合」では,68.0%の者が“すべて手書き(ソフト利用なし)”であった.ソフト利用の感想では,「複雑な条件にも対応できる」,「細やかな配慮ができない」,「ソフト以外の方法で入力したことがない」,「利用できそうになかった」,「使いづらい」,「エクセルを利用」,「自分で作成した方が早い」,「手書きで作成している」の回答があった.

5. 勤務表作成に関する思い(表4
表4 勤務表作成に関する思い
カテゴリー サブカテゴリー
肯定的思い 勤務表作成の前向きな捉え方 パズルと考えると楽しい
面白い
頭の体操になる
楽しみながら作成しようと心がけている
管理者としての自分の思いの反映 勤務希望を受け入れることは管理者としての役割である
勤務希望を反映させることが退院促進につながる
管理者としての自分の思いが反映される
勤務表作成に対する配慮 やりがいや働きやすさに結び付くような勤務表を目指している
ワークライフバランスに配慮している
全てのスタッフに平等になるよう休み希望は公平性を保つ
スタッフからのフィードバックによる喜び 感謝の言葉をもらった時や調整ができた時にはやりがいを感じる
自分の満足のいく勤務表ができた時やスタッフから認められた時に喜びがある
スタッフが勤務表の大変さを理解している
勤務表の重要性の実感 勤務表はスタッフのモチベーションアップにつながるため重要に感じている
勤務表は円滑な業務の進行と働く意欲に関わってくる
勤務表はスタッフの生活の基盤になる
勤務表作成の達成感 満足のいく勤務表ができた時の達成感がある
否定的思い スタッフの業務希望と休み希望による希望の多さ スタッフの勤務希望や急な勤務調整に苦慮する
希望が多く作成が困難である
スタッフの人数が多く希望や配分に合わせて作成することが困難である
急な休み希望や作成中の勤務変更が多い
希望が多い
医療観察法病棟以外の管理者やスタッフに大変さをわかってもらえない 医療観察法病棟以外の管理者に状況を理解してもらえない
医療観察法病棟の勤務表作成の大変さをわかってもらえない
勤務表作成時間確保の困難さ 勤務表作成にかかる時間が長い
業務時間内に勤務表作成時間が取れない
他院や病院全体との調整による苦痛 他院との連携調整が必要な場合があり苦痛を感じる
医療観察法病棟のルールと病院全体のルールの調整で苦痛を感じる
勤務表完成後の変更希望による落胆 勤務表完成後でもすぐに変更希望があり落胆する
調整困難に対する無力感 希望の多さによる調整困難な状況に無力感を感じる

肯定的思いとして39コード,17サブカテゴリー,6カテゴリーが抽出された.否定的思いとして42コード,13サブカテゴリー,6カテゴリーが抽出された.

Ⅴ  考察

1. 医療観察法病棟管理者の勤務表作成における現況と支援

勤務表作成経験を持つ一般科病棟看護職への調査(大鳥・横山・開田,2009)では,作成所要時間5時間以上の者が62.0%で最も多かったと報告されている.一方,本研究での作成所要時間5時間以上の者は80.0%であったことから,医療観察法病棟管理者は一般科病棟看護職と比べ勤務表作成に多くの時間を費やしていることがうかがえる.この勤務表作成の時間的負担や困難の軽減を目的とした研究(池上・相澤・大倉,1995)やソフトウェア開発が行われており,一般科病棟で「勤務計画表作成・支援ソフトウェアを導入している」と回答した看護師長は306名(74.8%)であったという報告もある(日本看護協会,2010).本研究では,勤務表作成ソフトを実際に利用している者は12.0%に留まり,自由記述の結果からもソフトの使いづらさがうかがえた.今後はソフトの機能に加え,ソフトを利用するために必要とされる訓練状況を確認し,ソフト自体の問題と使用者側の技術の両側面から検討していく必要があると考える.

勤務表作成に対する思いとして【医療観察法病棟以外の管理者やスタッフに大変さをわかってもらえない】ことや【他院や病院全体との調整による苦痛】が抽出され,医療観察法病棟特有の困難さがあった.医療観察法病棟は運営基盤としている法律が一般診療科とは異なるため,医療観察法病棟で行われる業務は他科のスタッフに馴染みのない業務であることが理解の得られにくさにつながっているのではないかと考えられる.一方,大鳥・横山・開田(2009)は,勤務表作成に「やりがいがある」,「今後も関わりたい」という者が約3割いたと報告している.本研究においても【勤務表作成を前向きに捉える】や【スタッフからのフィードバックによる喜び】など,勤務表作成を肯定的に捉えて取り組んでいる様子が示され,医療観察法病棟管理者は特有の困難さを有しながらも,肯定的に捉えている部分もあると言える.病院看護職における新任中間管理職の職務動機づけに影響する要因として“他者の支援・協力”や“他者からの承認”があると報告されている(山本ら,2013).周囲のスタッフによる肯定的フィードバックなど,勤務表作成においても病棟管理者の肯定的な側面を伸ばすことができるような支援が重要であると考えられる.

本研究対象者は,他病棟で勤務表作成の支援や教育を受けていたが,医療観察法病棟では主に個別指導であり,中には支援や教育を受けていない場合もあった.「実際にあった方が良いと思う支援や教育」では,各項目に対して約半数の対象者が「あった方が良い」と回答しており,医療観察法病棟以外で支援や教育を受けた経験を有していても医療観察法病棟での支援や教育へのニーズを持っていることがうかがえる.意見交換会や研修会の機会など定期的に集まる場の提供によって,医療観察法病棟管理者同士が互いの情報や,勤務表作成の工夫について共有できると考える.

2. 研究の限界と今後の課題

本研究では独自に作成した質問紙を用いて調査を行った.パイロットテストを実施して内容確認を行ったが,44.0%の者が“作成所要時間12時間以上”と回答し,分布が不明瞭となった.信頼性の検討においても不十分であるため,質問項目についての検討が必要である.また,思いに関しても,記述からでは回答者の意図を読み取ることが困難であったため,面接調査による質的な側面からの調査も必要と考える.

Ⅵ  結論

医療観察法病棟管理者の勤務表作成所要時間は,5時間以上が80.0%,そのうち44.0%が12時間以上であり,一般科病棟の看護職員を対象とした調査と比較して長かった.作成負担軽減のための勤務表作成ソフトであるが,利用者は12.0%に留まっているため,ソフトの機能を含めソフト利用に必要とされる訓練状況についても確認していき,ソフト自体の問題と使用者側のスキルの両側面について検討していく必要がある.また,勤務表作成に対する思いとして医療観察法病棟に特有の「大変さ」がある一方,【スタッフからのフィードバックによる喜び】といった肯定的な側面も見出され,勤務表作成の肯定的な側面を伸ばす働きかけの重要性が示唆された.

謝辞

本調査にご協力いただきました病棟管理者の皆様,ならびに各施設責任者の皆様に厚く御礼申し上げます.本研究は日本精神保健看護学会第29回学術集会で発表し,平成29年度新潟県立看護大学学内共同研究助成を受けて実施したものである.

著者資格

HAは研究の着想から論文の作成の全過程に貢献した.SN,MN,NOはデータ分析および解釈,研究プロセス全体への助言と分析および論文構成に貢献した.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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