2016 年 45 巻 3 号 p. 75-86
本論文では,AIの科学への応用(AI for Science)とAI for Scienceのアプローチの一つであるデータ駆動科学を議論する.データ駆動科学の学理の原点として提案されたデータ駆動科学の三つのレベルに基づき,どのようにAI for Scienceを進めていくかを述べる.AI for Scienceが取り組むべき重要な課題として,スパコン「京」に代表される大規模計算機からの数値シミュレーションデータやシンクロトロン放射光や量子ビームなどの大規模計測機から得られる計測データを統合するデータ科学的枠組みをとりあげる.計測データの解析に関しては,計測科学をベイズ推論で定式化したベイズ計測を提案し,VMA(仮想計測解析)を提案する.数値計算データに対しては,電子状態計算からの有効モデル抽出を紹介する.最後に,有効モデルを媒介としたデータ駆動科学的アプローチによる大規模計算と大規模計測データの統合の枠組みを述べる.