鮮新世から更新世にかけて形成された地層には, 周期が数万年から数10万年の堆積シーケンスが広く認められる。これら高周期堆積シーケンスの多くは, 氷河性海水準変動に強く支配されて発達したと考えられている。これは, 一般に, 鮮新世から更新世にかけての氷河性海水準の変動速度が, 堆積盆の隆起•沈降速度よりも大きいためである。ところが, 酸素同位体比曲線で示される氷河性海水準変動の1つ1つが高周期堆積シーケンスとして地層に記録されている場合は稀である。ここでは, 上総海盆に発達した上総層群とメキシコ湾に発達したミシシッピー海底扇状地堆積物を中心に, 高周期堆積シーケンスの発達時期や周期性の特徴と氷河性海水準変動および堆積速度との関係を検討した。本来, これら2つの堆積盆は, 鮮新世から更新世にかけて, 異なったテクトニクスや気候条件に支配されていたが, 高周期堆積シーケンスの発達に関して, 以下のような共通点が認められる。
一般に, 氷河性海水準変動には周期がおよそ2万年から10万年の短周期の変動と, 周期がおよそ100万年から200万年の長周期の変動が認められる。長周期の変動が示す海水準の低下期や低海水準期には, 高海水準期に比べ, 短周期の変動に対応した堆積シーケンスの発達が顕著である。これは, 長周期の海水準の低下にともなって短周期の海水準の低下量や低下速度が増幅され, シーケンス境界が発達する確率が高くなった結果と考えられる。さらに, 堆積速度の増加にともなって, より短周期の氷河性海水準変動に対応した堆積シーケンスの発達が認められる。これは, 堆積速度の増加にともなって, 堆積システムが活発に前進し, 厚い堆積物が形成されていったため, より短周期で小規模な海水準の低下がシーケンス境界として地層に記録される確率が高くなった結果と考えられる。