2019 年 19 巻 1 号 p. 83-102
本研究は,スポーツ傷害受傷アスリートが,自らを競技復帰したと認識する経験に焦点を当て,アスリートが受 傷してから競技に復帰したと認識するまでの経験のプロセスおよび,そのプロセスの中でどのように復帰に対す る個々人の認識が形成,変容,維持されるのかを明らかにすることを目的とした。方法論として複線径路等至性 アプローチ(TEA)を採用し,9 名の受傷経験を持つ男性アスリートに半構造化面接を行った。得られたデータ は複線径路等至性モデリング(TEM)および発生の三層モデル(TLMG)により分析した。その結果,〈これまで の向上イメージが揺らぐ〉〈“戻る” を復帰とみなす〉〈競技離脱経験に価値を求める〉の 3 段階で競技復帰を経験 していることが明らかになった。この過程において,アスリートとしての自己に関する信念と復帰に関する信念 をめぐる変容と維持が生じていることが示された。これらの検討を通して,身体医学的な観点では十分に捉えき れなかった,競技復帰をめぐる個人の内面的な様相を提示した。