質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
批判的思考態度の形成を支える輪読実践のエスノグラフィ
眞崎 光司
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2021 年 20 巻 1 号 p. 149-167

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抄録

本研究では,輪読実践に参加することによる大学生の批判的思考態度の形成がどのような実践の特徴によって支 えられているのかについて解明するとともに,そのことに批判的思考の表出の問題がどう関わっているのかを解 明する。そのため,大学生が正課外に行っている輪読実践に注目し,エスノグラフィによって記述した。先行研 究によると,輪読は大学生の批判的思考態度の形成に有用であると考えられるからである。その結果,輪読実践 への参加によって,既存研究において確認されていなかった「証拠の重視」をはじめとした批判的思考態度の形 成が確認された。それらの態度は,責任や信頼を伴う継続的な学習者同士の関係性や正課外学習活動の目標や行 動の自由度の高さによって生まれる古参者の社会的クリティカルシンキングによって支えられていた。これらの 結果は,尺度を用いた自己評価による測定を基にした既存の批判的思考態度の研究に対して,エスノグラフィと いう研究方法の有用性を示すとともに,学習者同士の継続的な関係性に焦点を当てることの重要性を示した。ま た同時に批判的思考態度の形成を目指す教育実践における正課外学習活動の有用性を示した。

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© 2021 日本質的心理学会
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