質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
質的研究における対話的モデル構成法
多重の現実,ナラティヴ・テクスト,対話的 省 察 性
やまだ ようこ
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2007 年 6 巻 1 号 p. 174-194

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抄録

質的研究の新たな方法論として「質的研究の対話的モデル構成法(MDMC)」を提案し,その前提となる理論的枠組モデルを構成し,次の 3 つの観点から考察した。1)多重の現実世界と対話的モデル構成:現実世界は一つではなく,多重の複数世界からなり,研究目的によってどのような世界にアプローチするかが異なる。対話的モデル構成がアプローチする世界は,「可能的経験世界」と位置づけられる。他の「実在的経験世界」「可能的超越論世界」「現実的超越論世界」との対話的相互作用が必要である。2)多重のナラティヴのあいだを往還する対話:ナラティヴ研究者がアプローチする現 場 フィールドとナラティヴの質の差異も多重化すべきである。そこでナラティヴの現場を「実在レベル:当事者の人生の現場」「相互行為レベル:当事者と研究者の相互行為の現場」「テクスト・レベル:研究者によるテクスト行為の現場」「モデル・レベル:研究者によるモデル構成の現場」に分けて,それらを対話的に往還する図式モデルを構成した。3)「ナラティヴ・テクスト」と「対話的省察性」概念:対話的モデル構成において根幹となる二つの概念について,研究者がテクストと対話的に「語る」「読む」「書く」「省察する」行為と関連づけて考察した。テクストは,文脈のなかに埋め込まれていながら,相対的に文脈から「はなれる」(脱文脈化・距離化)ことによって,新しい「むすび」をつくり,物語の生成を可能にする。

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© 2007 日本質的心理学会
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