抄録
日本列島を構成する3つの生物地理区(北海道と本州・四国・九州および琉球列島)のそれぞれにおいて,最終氷期と完新世の陸棲哺乳類の動物相と,それらの時期に起こった絶滅現象や移入についてまとめた.北海道では,最終氷期の動物相の構成要素の代表的なものとして数種の大型哺乳類が知られているだけであるが,この時期の北海道には東シベリアからマンモス動物群が南下していたと推定される.それら最終氷期の大型哺乳類は,完新世の初頭までに絶滅したようである.北海道の完新世の動物相は,現在のものとほぼ同じで,この時期に他地域からの動物群の移入は見られない.本州・四国・九州では,最終氷期の動物相の主体は現在もこの地域に分布する現生種が占めている.しかし,絶滅種や現在この地域に分布しない現生種もかなり含まれていて,それらは放射性炭素年代で約20,000年BPから約10,000年BPの間に絶滅したようである.最終氷期の本州・四国・九州には北海道からマンモス動物群の一部が移入してきたが,そのような移入は限定的なもので,当時の津軽海峡には安定した陸橋はなく,短期の不安定な「氷橋」が形成され,そこを通って移入したと推定される.本州・四国・九州の完新世の動物相は,現在のものとほぼ同じであり,この時期には他地域からの動物群の移入は見られない.琉球列島では,最終氷期の動物相は島嶼型の特徴を持ち,中・小型のシカ類などその主要構成要素は完新世の初頭までに絶滅したようである.琉球列島では,最終氷期と完新世を通じて動物群の移入はなかったと考えられる.