第四紀研究
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「第四紀後期の気候変動と地球システムの挙動—その原因とメカニズムの解明に向けて—」特集号
北西部北太平洋海底堆積物に記録された表層および中・深層循環の1,000年スケール変動
原田 尚美木元 克典岡崎 裕典長島 佳菜Timmermann Axel阿部 彩子
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2009 年 48 巻 3 号 p. 179-194

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抄録

日本を含めた東アジアの気候変動に影響を及ぼすオホーツク海,ベーリング海,日本海などの縁辺海を含む北西部北太平洋域において海底堆積物を採取し,そこに記録された大気循環,表層環境から中・深層まで,急激に生じた海洋環境変化を代替指標(プロキシー)を用いて復元した.
日本列島東方海域(38~45°N, 163~170°E)の海底堆積物に記録された表層水温(SST)変動から,完新世と最終氷期における亜寒帯前線帯の位置を比較した.その結果,緯度方向のSST勾配から推測される亜寒帯前線帯は,最終氷期最寒期(LGM)には現在よりも緯度で数度程度南下していたことが示唆された.前線帯の南北移動については,偏西風ジェット軸の南北移動と密接に関連している可能性がある.さらに,オホーツク海および日本海堆積物の記録によると,SSTや偏西風ジェット軸は,氷期—間氷期スケールよりもさらに短い周期のダンスガード-オシュガーサイクルとほぼ同期して変動していることがわかった.大西洋と太平洋間の気候変動伝播メカニズムとして,偏西風(惑星波)などの中・高緯度の大気経由による伝播の可能性が示唆される.
一方,下北沖周辺の北西部北太平洋における約980~1,300 m深の堆積物の記録によると,融氷期のHeinrichイベント1寒冷期(H1 : 17.5~14.6 ka)における中層水循環年齢は,現在よりも600~700年ほど若く,中・深層の対流が活発になっていたと報告されている.以上の海底堆積物に記録されたプロキシーの記録から,(1) 北太平洋中高緯度域の海洋表層環境は,偏西風軸の南北移動の影響を大きく受けていること,(2) 大西洋高緯度域と太平洋中高緯度域気候変動の同位相性を説明するには,偏西風などの中・高緯度大気循環を介した伝播機構が重要であること,さらに (3)融氷期に代表される1,000年スケールの気候変動に連動して,海洋表層環境の変動から中・深度層循環へと変化が随所に現れている様子が明らかとなってきた.このような中・深度層循環を変化させる要因を明らかにするために,3種類の古気候モデルを用いて北大西洋高緯度域で強制的に大量淡水供給を起こす「water hosing実験」によってH1を再現し,プロキシーの結果から推測される伝搬メカニズムの検証を行った.その結果,H1では太平洋表層環境が寒冷化し,中・深層における対流が活発化することがモデルによっても再現され,メカニズムの解明にはプロキシーとモデルの連携研究が重要であることが明らかとなった.

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© 2009 日本第四紀学会
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