2009 年 48 巻 4 号 p. 289-294
地球科学や考古学の分野では,酸—塩基—酸(Acid-Base-Acid : ABA)前処理法で洗浄された炭化物が 14C年代測定用試料として広く用いられている.しかし,この前処理法は必ずしも客観的かつ独立的な検証に基づくものではなく,塩基溶液洗浄時の処理終了は目視にて判断されてきた.本研究では,実際の考古試料の 14C年代測定において,塩基溶液による抽出段階でのNaOH溶液に対する目視による色調と実際の有機物抽出の様子,その年代値への影響について新たな独立の化学的指標である三次元蛍光分析によって検証することを試みた.その結果,目視により塩基溶液処理終了と判断した後も,三次元蛍光分析結果では腐植物質が観察され,年代測定結果もこれを裏づけた.すなわち,目視による塩基溶液洗浄処理終了の判断は,不十分である可能性が示唆された.