近年の海面水位変動が汽水域の生態系に及ぼした影響を検証するために,湖山池から柱状堆積物を採取した.有殻質根足虫類(thecamoebians)の産出および堆積物の化学的特徴を考慮することにより,過去約60年の塩分の変化過程を明らかにすることができた.1種よりなるDifflugiaは,1950年以前はわずかしか産出しなかったが,1960年代になると多くなる.そして,最近の30年間は大きく変動しながら産出していた.1960年代の多産は,海面水位の低下期と湖の塩分が低下したことと一致しており,この時はまた,湖山池と海岸をつなぐ湖山川の水門が沿岸海水の逆流を止めていた.1950年代や1970年代の低い産出は,日本列島沿岸域の海面水位の上昇期と一致しており,Difflugiaの産出は海面水位の変動と呼応していたことが明らかとなった.一方で,1980年代以降に海面水位が上昇したにもかかわらず湖内の塩分が低下し,Difflugiaが多産傾向にあるのは,水門によって湖山池が効果的に塩分調整されているためである.