島根県北東部にある神西湖の有孔虫群集について,過去60年間の海面水位変動と洪水による影響について検討を行った.日本の沿岸で認められている1950年代と1970年代の中頃の海面水位の上昇期には,汽水性のAmmonia “beccarii”の産出個体数が増えていた.しかし,1990年代以降の海面水位の上昇とは調和的な増加はみられなかった.1980年代以降のCOD(化学的酸素要求量)の経年変動と比較すると,有孔虫の産出はよく似た変化を示すことから,湖内の有機物量が規制要因になっている.
また,洪水事件に対して,(1)A. “beccarii”が増加したあとでElphidium excavatumが増える,(2)A. “beccarii”のみ増える,(3)ともに増加する,の3つのパターンが確認された.洪水堆積物には有機物量の付加が認められないが,全体としては個体数の増加がみられる.このことから,有孔虫は洪水によって生産性を高めていることが明らかとなった.