第四紀研究
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論説
タブノキの生殖器官化石に基づく前期完新世のイベント堆積物の季節推定
小林 真生子百原 新岡崎 浩子岡本 東三柳澤 清一
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2009 年 48 巻 6 号 p. 395-404

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抄録

千葉県館山市の沖ノ島遺跡から,前期完新世の保存状態のよいタブノキの花や果実といった生殖器官の化石を含む大型植物化石密集層が見つかった.この密集層は,遺跡放棄後,洪水などのイベント堆積物中に狭在している.この完新世のタブノキの花や果実を含む大型植物化石群が堆積した季節を推定するために,現在のリター層中でタブノキの生殖器官の落下時期や季節による形態変化,分解過程を観察した.タブノキの花や果実は,地面に落下した後は分解されやすく,特に,果実は落下後時間が経つほど花被や果実が破損したり,虫に喰われたりする傾向があった.また,時期により地表で観察される果実のサイズは異なっていた.沖ノ島遺跡から出土したタブノキの果実化石は,花被や果実に破損がなく,最大サイズが約5 mmであったため,この堆積物は5月下旬から6月中旬に堆積したと考えられた.化石群が堆積した層は砂層と泥層の互層であり,この化石群はこの時期に発生した洪水によって堆積したと考えられた.このように,短期間に堆積したイベント堆積物の季節推定には,生殖器官の化石の検討が有効であることが明らかになった.

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© 2009 日本第四紀学会
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