第四紀研究
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2008年度日本第四紀学会賞受賞記念論文
完新世における温暖種が示す対馬海流の脈動
松島 義章
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2010 年 49 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

1970年から三浦半島北西岸の片瀬川支流の柏尾川低地を中心に,鎌倉の滑川低地,逗子の田越川に分布する海成沖積層の貝化石調査を開始した.その結果,内湾および沿岸に分布する11の貝類群集を識別することができた.その中で干潟群集と内湾砂底群集は,南は鹿児島から,北は北海道にかけて各地の海成沖積層で確認することができた.さらに,両群集中には現在の貝化石の産出地点より高水温の場所に生息する種が含まれていることも明らかになった.このような現在の貝化石の産出地点より高水温の場所に生息する種を,その化石産出地における温暖種と呼ぶ.北海道で確認された温暖種は,本州に分布の中心をもつウネナシトマヤガイTrapejium liratumやハマグリMeretrix lusoria, シオフキMactra veneriformis, サビシラトリMacoma contabulataなどであり,北海道沿岸に分布する海成沖積層と貝塚から産出する.これらの温暖種について,その出現年代と消長に着目し,完新世における対馬海流の動向を調べた.その結果,温暖種が生息できる海水温の対馬海流が強まった時期は,オホーツク海沿岸域では約7,200~5,000年前,約4,200~3,200年前,約2,500~2,300年前,および約1,000~900年前の4回であり,ウネナシトマヤガイやサビシラトリの分布する温暖な海域環境となっていたことがわかった.その4回の時期は,道南の日本海側に比べて温暖種の出現が少し遅れ,短い期間となっている.しかも,4回の脈動とそれに伴って各回にみられる海流の強弱の程度も明らかとなった.

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© 2010 日本第四紀学会
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