2013 年 52 巻 6 号 p. 255-264
現生リュウキュウイノシシの骨形態変異について分析を行った.使用した試料は,奄美大島,加計呂麻島,徳之島,沖縄島,石垣島,西表島より得られたものである.推定年齢群IV-V段階の雌雄について,下顎骨の大きさと,下顎第3大臼歯の長さを比較した.また,第3,第4小臼歯,第1,第2大臼歯の頬舌径に基づき,LSI法を用いて,臼歯の大きさを比較した.さらに,ノンメトリック形質7項目について,島嶼間で比較を行った.
その結果,イノシシの下顎骨の大きさの分析結果と,歯の大きさの分析結果では異なる傾向が確認された.とくに,石垣島で結果の異なりが認められ,下顎骨の大きさでは石垣島のイノシシが奄美大島,沖縄島,西表島のイノシシに比べて大きい傾向が確認されたが,歯については小さい傾向が確認された.ノンメトリック形質については,第1小臼歯をもち,第3大臼歯のヘプタプレコニュリッドをもつ石垣島,西表島,九州のグループと,第1小臼歯がなく,第3大臼歯のヘプタプレコニュリッドが失われた奄美大島,沖縄島,本州のグループとにわけられた.
下顎骨,臼歯サイズ,ノンメトリック形質の結果から,奄美大島および沖縄島のリュウキュウイノシシの骨形質は,石垣島および西表島とは異なることが示された.また,奄美大島のリュウキュウイノシシは,沖縄島,徳之島,加計呂麻島のイノシシと形態が異なっていることが示された.このことから,奄美大島のリュウキュウイノシシは,沖縄島,西表島,石垣島などと比較してより長い時間,島嶼隔離の影響を受けた可能性が示唆された.一方で,加計呂麻島と徳之島のイノシシについては,大きさと形態が距離的に近い奄美大島よりも,沖縄本島と類似していることが明らかとなった.このことから,現在リュウキュウイノシシが生息する一部の島嶼部においては,イノシシが人為的に移入された可能性が示唆された.