第四紀研究
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「更新世・完新世の資源環境と人類」特集号
関東甲信越地方における後期旧石器時代石器群の生態ニッチモデリング
近藤 康久
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2015 年 54 巻 5 号 p. 207-218

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抄録

生態ニッチモデリング(ENM)は,生物種の既知の生息地点と気温・降水量・標高などの環境因子を入力変数とする機械学習によって,未知の領域における当該生物種のニッチの存在確率を外挿的に推定する手法である.先史人類の行動とニッチ構築には環境因子が大きな影響を及ぼしていたとすれば,ENMは考古学に応用可能である.本稿では,後期旧石器時代の人類集団の生態ニッチを定量的に評価・可視化し,もってその行動戦略を明らかにするために,関東甲信越地方における後期旧石器時代遺跡の大規模データにENMを適用した.具体的には,石器群のちがいが資源獲得戦略のちがいを反映すると仮定して,当該時期の4つの主要石器群(台形様石器,角錐状石器,ナイフ形石器,細石器)の生態ニッチを推定した.ニッチ確率を空間的に算出するにあたっては,最終氷期最寒冷期(21,000年前)の古気候および古地形データを調製し,入力変数に用いた.モデル計算の結果,4つの石器群すべてにおいて南関東の武蔵野台地・相模野台地・下総台地にニッチ確率の高い地域が認められたが,これは都市圏の開発に伴う集中的な緊急発掘調査に起因するバイアスの可能性が高い.また,中部高地の黒曜石産地からの距離が環境因子寄与率の上位を占めることが明らかになった.細かく見ると,角錐状石器,ナイフ形石器,細石器では箱根山地に2か所のニッチ高確率域が認められた.これらは富士川沿いに中部高地と箱根地区を結ぶ黒曜石運搬の「回廊」の一部をなしていたことが示唆される.

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© 2015 日本第四紀学会
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