本論では,群馬県居家以岩陰遺跡の発掘調査と出土資料の分析から得られた研究成果の概要とその学術的意義について論述した.同遺跡には,縄文時代早期の人骨や生活廃棄物の動植物遺存体が人為的な灰層中に非常によい保存状態で多量に埋蔵されている.40個体を超える埋葬人骨の出土はとくに重要であり,早期縄文人の形態的特徴と個体間変異,遺伝学的系譜,健康状態を集団レベルで明らかにできる.出土人骨の中には,ミトコンドリアゲノムのハプロタイプが同一の母系血縁者が多数含まれており,家族や婚姻関係,集団構成を実証的に復元することも期待できる.また,ミイラ化した遺体を腰部で切断する特異な埋葬法も明らかとなるなど,葬制に関する新知見も得られている.さらに,動植物資源の利用,動物狩猟の季節性,骨角器製作や皮革利用の実態,行動領域と居住形態など,山間地における早期縄文人の生態と行動を復元するさまざまな資料が得られている.