第四紀学における土壌研究の一層の発展のためには, 以下のような手法の開発ないし再検討が望まれる.
1. 土壌自身による年代測定法の開発黒ボク土A層の有機リンや植物珪酸体の蓄積速度による年数測定は, 土壌がどれだけの期間をかけて出来たのかを教える. これが, 土壌の平均年齢をあたえる14C年代と違う所である.
2. 層位学的比較対象物の年代精度の向上の利用土壌と関係するテフラ, 地形面, 堆積物, 考古学的遺物などの絶対年数が, 最近の年代測定法の進歩によって, かなり, くわしく推定できるようになったので, これを利用して土壌の年代も絶対年数で表示できる可能性が高まっている. これによって, 1の開発も促進され, 各種の生成速度が定量化できそうである.
3. 土壌化の程度の数量表示 土壌断面全体の発達度が定量化できれば, 上記の年代との関係の他に, 気候との関係についても, 明確な論議ができるようになる. 土壌の主要化学成分の全分析値から定義された風化指数が, 中国の黄土断面において, 気候変化とよく対応することが見出だされたのはその好例である.
4. 土壌中の微小生物遺体 (微化石) が環境指示者として役立つことが, 次第にあきらかになりつつある. 例として, 植物珪酸体, 花粉, 海綿骨針などがある. とくに, 植物珪酸体は植生が森林か草本かを区別する点で注目される.
5. 埋没後の土壌の変成の解明例えば, 埋没赤色土の遊離酸化鉄の結晶度が地表に露出する赤色土のそれと違うことがしばしば見られる. 想定しうる原因として, 多くの埋没赤色土の場合, 埋没前の削剥により, B層下部~C層 (白-赤, 黄-赤のまだらをなす, 弱湿性の環境を示す) しか残らない; 埋没により, 湿性の環境が維持ないし強化される; の2点が挙げられる.