抄録
木材化石群集の形成およびその堆積過程を明らかにするには, 泥炭層中にどのようなかたちで, 木材化石が埋積しているのかを, まず明らかにしなければならない. そのような目的で, 東京都北区の中里遺跡および袋低地遺跡から見い出された木材化石群集の研究をおこない, 泥炭層中の木材化石の平面分布を明らかにした. それによって, 木材化石群集にはすくなくとも二つのタイプがあることが認められた. 一つは, かつて生育していた場所にそのまま埋積している埋没林で, 中里遺跡においては縄文時代後・晩期のトネリコ属の優占する埋没林が認められた. もう一つは, 流路の両岸に生育していた樹木が流路内に倒れこんで, そのまま埋積したものである. 袋低地遺跡では, 縄文時代後期に形成されたこのような群集が認められ, その組成は流路のごく周辺の植生をつよく反映していた. このようにして, 木材化石群集の形成過程を捉え, そのタイプを認識することによって, それぞれの群集にはどの範囲の情報が内包されているのかを推定することが可能となる.