第四紀研究
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島根県大田市の掘削コアから発見された鬱陵島の完新世初期火山活動由来の漂着軽石
沢田 順弘中村 唯史楳田 禎久Sun Yoon徳岡 隆夫
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1997 年 36 巻 1 号 p. 1-16

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抄録

島根県大田市東方,波根地区で得られた掘削コアの標高-13.6mには厚さ2cmのトラカイト質軽石からなるテフラ(波根軽石)が挾まれる.波根軽石は鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)より下位にある.この軽石は火山ガラス,サニディン,単斜輝石,ケルスート角閃石,黒雲母,磁鉄鉱およびごく少量の斜長石からなる.本論文では,波根軽石および欝陵島のステージIVの軽石の全岩主・微量成分組成,および火山ガラスと構成鉱物の主成分化学組成を報告した.波根軽石と日本列島近辺の第四紀後期広域テフラの全岩,火山ガラス,鉱物組み合わせを比較検討した結果,波根軽石は9,300yrs BPの噴出年代を示す欝陵隠岐テフラ(U-Oki),すなわち欝陵島のテフラU-2より下位のU-4(下部)に対比可能である.波根軽石を挾在する掘削コアの堆積物は,完新世初期の海進期のものと判断されるので,波根軽石の年代の下限は10,000yrs BPより古くはならない.軽石の産状やコア試料から推定される堆積環境,および他地域のU-Okiの産状との比較から判断して,波根軽石は海流によって運ばれ,内湾の汀線付近に漂着したものと推定される.すなわち完新世初期の海水準は軽石層の挾在深度である標高-13.6mにあったものと判断される.汀線の位置を示し,しかも噴出年代が知られている漂着軽石の存在は,海水準の相対的変動を知る上で重要であり,また古海流の推定にも貢献する.

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