第四紀研究
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黄土層の初磁化率:レヴィユー
鳥居 雅之福間 浩司
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1998 年 37 巻 1 号 p. 33-45

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抄録

黄土層は,アジア大陸内部での過去250万年間の古環境変動を研究する絶好の対象である.とりわけ,モンスーン気候の成立と密接な関係があると考えられていること,また黄砂現象が日本や広く太平洋(北半球)にまで及んでいることなどを考えると,第四紀の古環境復元にとって黄土層研究の持つ意味は大きい.黄土層による古環境研究が進んだ大きな理由の1つとして,黄土層の初磁化率の変動が深海底堆積物の酸素同位体比変動ときわめてよく似ていることがあげられる.古気候のproxyが陸成堆積物から得られたことの意味は非常に大きい.その一方で,黄土層ではなぜ初磁化率の変動が見られるのか,とくに古土壌でなぜ初磁化率が増加するのかということが,この10年間の岩石磁気学的研究の中心的課題であった.初磁化率は,単に強磁性鉱物の含有量に比例しているのではなく,強磁性鉱物の種類ごとの粒径分布に強く支配されている.最近の研究により,土壌化作用で形成される100nm以下の単磁区~超常磁性粒子の増加が,古土壌での初磁化率増加の原因であることがはっきりしてきた.この過程が生物的なのか,それとも非生物的なのかについてはまだ議論が続いているが,いずれの場合でも気候の湿潤温暖化が古土壌での初磁化率増加の共通の原因であることは確かだろう.初磁化率増加のメカニズムがはっきりしてきたことにより,初磁化率の変動から降水量を推定し,古気候復元のための定量的モデルを構築することが可能になってきた.

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