第四紀研究
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長野県北御牧村の下部更新統大杭層から産出した地表性甲虫(鞘翅目,オサムシ科)化石の生物地理学的・古環境的意義
林 成多
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1998 年 37 巻 2 号 p. 117-129

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抄録

長野県北佐久郡北御牧村の下部更新統の大杭層から多くの甲虫化石が得られた.これらの化石はオサムシ科ゲンゴロウ科,ガムシ科,ハムシ科のネクイハムシ亜科などの地表性・水生甲虫により構成される.地表性甲虫の化石には,セスジアカガネオサムシ(Hemicarabus maeander),マークオサムシ(Apotomopterus maacki),クマガイクロアオゴミムシ(Chlaenius gebleri)の3種が含まれていた.
セスジアカガネオサムシは,現在では化石産地を含む本州には分布しておらず,北海道,済州島,サハリン,中国東北部,シベリア東部,北アメリカに分布する.この化石の発見と現在の分布は,この種のかつて広く連続した分布域が不連続になり,前期更新世以降に本州から絶滅したことを示している.したがって,この種は更新世における本州の地理的レリックであると考えられる.さらに,セスジアカガネオサムシ,マークオサムシ,クマガイクロアオゴミムシの3種について,現在の分布と化石記録から,日本列島への進入経路と時期について考察した.また,大杭層産の化石を含む更新世の化石記録は,日本列島におけるオサムシ亜科の現生種が前期更新世以前に遡ることを示している.
甲虫化石に基づく上部大杭層の古環境は,止水域を伴うヨシの生える低層湿原であったと推定される.これらの甲虫群集,とりわけセスジアカガネオサムシとクマガイクロアオゴミムシを含むことは,上部大杭層の堆積した時期に北海道で見られるような低層湿原が存在したことを示している.

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