第四紀研究
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植物珪酸体分析からみた最終氷期以降の九州南部における照葉樹林発達史
杉山 真二
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1999 年 38 巻 2 号 p. 109-123

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抄録

鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)などの広域テフラを時間の指標として,植物珪酸体分析の結果から九州南部における最終氷期以降の照葉樹林の発達史について検討を行った.その結果,種子島では約65,000年前以降の最終氷期に,シイ属Castanopsisなどの照葉樹林が継続して存在していたことが確かめられた.その後,約11,000年前には薩摩半島でクスノキ科Lauraceaeが拡大を開始し,約6,300年前までにはシイ属やクスノキ科を主体とした照葉樹林が南九州の沿岸部をはじめ九州の内陸部にまで拡大していたと推定される.ただし,黒ボク土が広く分布する南九州の内陸部などでは,ネザサ節やススキ属などのイネ科主体の草原植生が継続されており,九州南部全域に照葉樹林が拡大したのは約4,200年前以降と推定される.約6,300年前に鬼界カルデラから噴出した幸屋火砕流(K-Ky)が及んだ大隅半島南部や薩摩半島南部では,照葉樹林が絶えてススキ属Miscanthusなどが繁茂する草原植生に移行したことが確かめられた.これらの地域では,少なくとも600年間は照葉樹林が回復しなかったと推定されるが,幸屋火砕流が及ばなかった地域では照葉樹林が絶えるほどの影響を受けなかった可能性が考えられる.

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