1999 年 38 巻 4 号 p. 313-326
第四紀の隆起運動が著しい房総半島の夷隅川下流域で,酸素同位体ステージ3(24~57ka)に河口付近で形成された段丘面が,少なくとも3面存在することが明らかとなった.これらのうち最低位の吉附面は,段丘面がほぼ水平で,砂泥質の谷埋堆積物をともなう.さらに,テフラとの層位関係,段丘構成層の14C年代測定結果から,吉附面は30ka頃の海進による海成段丘であることが示唆された.さらに花粉分析の結果,予想される当時の環境と矛盾しなかった.Shackleton(1987)の古海面変動曲線のうち,28~29kaの海進のピークに吉附面が,37~40kaと44kaのピークに他の2面が順次形成されたと認定した.さらに酸素同位体ステージ(MIS)5e(125ka)とMIS 1(6ka)の段丘面から得た隆起速度から,125ka以降の隆起速度が2.1m/kaで一定であったと仮定して推定された古海面高度は,それぞれ-29~-31m,-28~-34m,-22mとなった.これらの値は,最近修正されたパプアニューギニアのヒュオン半島の珊瑚礁段丘から得られた値(たとえばChappell et al.,1996)とは調和しない.