第四紀研究
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山口県宇部興産採石場第1地点と広島県帝釈観音堂洞窟遺跡産の中・後期更新世イノシシ化石
藤田 正勝河村 善也
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2001 年 40 巻 2 号 p. 149-160

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抄録

山口県美祢市にある宇部興産採石場第1地点から産出した中期更新世のイノシシ化石1点(下顎第3大臼歯)と,広島県神石町にある帝釈観音堂洞窟遺跡から産出した後期更新世のイノシシ化石3点(前頭骨,上顎第2切歯,下顎第4小臼歯)を系統分類学的に記載し,それらの形態的特徴を明らかにした.わが国では確実に更新世のイノシシ化石といえるものは少なく,これらは更新世の本州・四国・九州に分布したイノシシの特徴を知る上で貴重な材料となる.これらの化石を東アジア産のイノシシ類の現生種および第四紀の化石種と比較した結果,現在ユーラシアに広く分布するSus scrofaにその形態的特徴がよく一致することがわかった.しかし,東アジア産化石種の形態に関するデータは十分でなく,今回の化石標本も数が少ない上に保存も悪く,十分な比較が行えなかったので,今回はこれらの化石をS.cf.scrofaとするにとどめる.これらの化石のうち,宇部興産採石場第1地点産のものは,現在の本州・四国・九州に分布するS.scrofaの亜種S.s.leucomystaxのそれより大きく,ほかの中期更新世の化石産地のものとほぼ同じ大きさであった.しかし,帝釈観音堂洞窟遺跡産の化石はS.s.leucomystaxとほぼ同じ大きさであった.今回の研究の結果とこれまでに得られているデータから,S.scrofaやそれに近いイノシシは中期更新世中期にはすでに本州・四国・九州に生息していて,そこから後期更新世にかけて数が減少し,さらに後期更新世後期から完新世にかけては逆に急増した後,この地域の完新世の動物相の主要な構成要素となったと推定される.

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