第四紀研究
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津波堆積物中の混合貝類化石群の形成プロセス
南関東における完新世の内湾の例
藤原 治鎌滝 孝信布施 圭介
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2003 年 42 巻 6 号 p. 389-412

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抄録

房総半島南部の溺れ谷に堆積した完新世の内湾性のシルト層には,基底に侵食面を持ち,上方へ細粒化する高密度流から堆積した砂礫層(イベント堆積物)が多数挾まれる.多くのイベント堆積物では,レンズ状の貝化石層と粘土質の地層とが細互層をなす.これは,ストームによる化石層が波の減衰過程を反映して,貝殻の集積密度が基底から上方へ低下する状況とは異なる構造で,貝殻を吹き分け集積させる振動流と,浮遊物質が沈積する流れの長い停滞期の繰り返しを示す.イベント堆積物に含まれる貝類遺骸群は保存がよく,泥底から岩礁までさまざまな底質に生息した種が混合している.これは,普段は低エネルギーの内湾周辺に生息した貝類が強い流れで剥ぎ取られ,急速に埋積されたためと考えられる.これらの混合化石群は,ストームウェーブベースより深い海底に棲む貝類の化石も含むことがあり,沖から湾奥への貝殻の運搬を示す.これらの産状と種構成は,周期が10秒前後のストーム波では説明が困難だが,周期が10分オーダーの波動の繰り返しで,かつ深い海底まで海水を動かす津波であれば形成可能である.

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