高知平野伊達野の低湿地堆積物の花粉分析から,当地域の最終氷期以降の植生史を明らかにした.少なくとも最終亜間氷期(MIS 3)には,スギ,モミ属,ツガ属が優勢な温帯針葉樹林が分布し,サルスベリ属やハマナツメといった暖温帯性落葉広葉樹も残存していた.湿地ではハンノキ林が優占していた.約30,000yrs BPのMIS 3後期にはスギ優占林はほぼ消滅した.MIS 2には,ツガ属とモミ属が優勢で,コナラ属コナラ亜属,ブナなどを伴う温帯針広混交林が成立した.湿地のハンノキ林は衰退し,その縁辺ではヨモギ属とカラマツソウ属の優勢な乾生草原が,湿潤地ではワレモコウ属,セリ科,イネ科などを主とする湿生草原が拡大した.後氷期(MIS 1)に入ると,ヤマモモ,コナラ属アカガシ亜属,シイ属が順を追って分布を拡大し,約8,000yrs BP以降,照葉樹林が低地を広く覆った.約1,700yrs BP以降には,人為の森林干渉によって照葉樹林が破壊され,マツ属やヤマモモの優勢な二次林に移行した.