第四紀研究
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時代を異にする汀線高度の比較による地殻変動の考察
太田 陽子貝塚 爽平菊地 隆男内藤 博夫
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1968 年 7 巻 4 号 p. 171-181

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抄録

1) 適当な広さの地域をいろいろなところで設定し,それらの中で,それぞれ対比される新旧2つの汀線高度を測定する.
2) 各地域内で,十分小さな区域(地点)をとり,その中で新旧2つの汀線高度の組を作る.
3) 直交座標の横軸に新らしい汀線高度(h2),縦軸に旧い汀線高度(h1)をとり,上記の各地点の新旧汀線高度の組を座標として,地域毎に相関図を作る.
4) 相関図において,新旧の汀線高度が十分大きな相関係数をもつ場合,その回帰直線(h1=ah2+b)を求め,その勾配aと切片bを定める.
5) 前項が成立する場合には,各地点の旧い汀線形成期(t1)から新らしい汀線形成期(t2)までの平均垂直変動連度(v1)とt2から現在までのそれ(v2)とはすべて一次式v2=mv1+nを近似的に満足する,ここで,m,nはその地域に固有の定数で,それぞれを変動速度継続係数,地域変動速度加数とよぶ.
6) 4)のようにしてaが定まれば,一義的にmが定まる.ここでa=t1/t2となるならば,m=1である.また,t1,t2の年代が知られていなくとも,地質構造区や地殼構成物質の力学的性質の異なる多くの地域のaの値が一致する場合にもm=1としてよい.
7) aが等しく,かつbが等しければnは等しい.6)のようにしてm=1となった場合には,v2-v1=nとなり,したがってt2~現在の平均変動速度はt1~t2のそれをそのまま引ついだものの上に,その地域内で一様な速さnを加えたものである.地域毎のnを比較することによって,地域の広さよりも大きい波長の地殼変動に関する情報が得られる.
8) mおよびnの値の比較によって,地殼変動区を設定することができ,また,それぞれの変動区における地殼変動速度の推移を知ることができる.
9) この方法による地殼変動速度推移や地殼変動区の研究は,汀線の対比ならびに年代測定が前提条件となる.また,この方法は各々の地点の変動速度にちがいのある地域の方がちがいのない地域よりも適用でき,この意味で日本のような地殼変動の単純でない地域は都合のよい研究対象である.

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