本稿では,旧商法および現行会社法における会計の目的の変化が中小会社に与える影響に ついて明らかにし,昨今進展する会計DXとの関わりについて考察することを目的とする。旧商法では 多数の利害関係者のいる大会社を基本形としており,債権者保護の考え方に重きが置かれていた。現行 会社法では利害関係者のほとんどいない中小会社を基本形としており,利害関係者に対する情報提供機 能についても同様に重視されるようになった。このような会社の基本形が変化することによる会計の目 的の変化に関して,中小会社では資金調達や取引先の拡大に資するための情報提供が重視されるように なりながらも,債権者保護の要請は依然として存在している。
近年は会計DXの進展に伴う諸問題に関する議論が多くなされている。かつて電算機会計が普及した ときには,作成された計算書類等の品質の是非が課題とされていた。これに類似した問題が,時代を経 ても唱えられており,AIやAIを操作する人間の不正防止や,会計処理の一連が自動化することによる 処理過程のブラックボックス化などがその一例としてあげられる。また,商業帳簿は訴訟に際する証拠 力があることからその品質が損なわれてはいけない。したがって,特に中小会社の場合,会計の基礎に 立ち返ることが必要であると考えられ,今後は計算書類に対する記帳の重要性が更に増していくものと 予想される。