2015 年 71 巻 3 号 p. 136-142
本稿では,どんな環境でも聞きたい音を聞き分ける技術を実現する上で重要な未解決問題として,拡散性雑音下での目的音強調を取り上げる。従来広く用いられてきたマイクロホンアレイ技術は,点音源の仮定に基づいている。そのため,仮定から逸脱する拡散性雑音下では,雑音除去が困難であるだけでなく,音源分離や残響除去の性能が大幅に劣化していた。本稿では,拡散性雑音下の目的音強調に対する有望なアプローチとして,1)等方性と行列部分空間に基づく拡散性雑音のモデル化,2)拡散性雑音除去・音源分離・残響除去の確率論的モデル統合,を紹介する。更に,残された課題と今後の展望について論じる。