2012 年 15 巻 2 号 p. 216-224
近年,大学生における抑うつ傾向の増加が問題となっており,その予防は大学にとって重要な課題となっている。そこで本研究では,大学生を対象としてどのような要因が抑うつ傾向に影響を及ぼすかについて検討した。先行研究を基に抑うつに影響を及ぼす要因である性格特性のなかから神経質傾向,予防医学の観点からSense of Coherence (SOC)の二つの要因を選び,抑うつ傾向との関係性について総合的に解析を行った。
調査対象者は,首都圏の大学生251名(男性133名,女性118名,平均年齢20.0歳,SD=1.0)であった。抑うつ傾向を測定する尺度としてSelf-rating Depression Scale (SDS)日本語版,神経質傾向を測定する尺度としてBig Five Scaleの下位尺度である神経質傾向に関する質問,Sense of Coherence(SOC)を測定する尺度としてSOC日本語版29項目スケール(SOC-29)をそれぞれ用いた。各尺度得点の平均値は,先行研究とほぼ同様な値を示した。パス解析の結果,SOC(β=-.587, p<.01)から神経質傾向に対して負の影響が得られ(R2=.344, p<.01),SDSに対してSOC(β=-.580, p<.01)から負の影響,および神経質傾向(β=.232, p<.01)を媒介した正の影響(R2=.549, p<.01)がそれぞれ得られた。
これらの結果から,抑うつ傾向の低下にはSOCの強化が有効であること,SOCを強化することで神経質傾向を抑え,抑うつ傾向を低下させることが示唆された。