学校メンタルヘルス
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資料論文
大学生アスリートのライフスキル獲得に関する研究―コミットメント・情熱・ストレッサーの関係性に着目した検討―
八田 直紀清水 安夫大後 栄治
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2012 年 15 巻 2 号 p. 260-267

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抄録

【問題と目的】近年,スポーツ経験とライフスキルの関係性が注目されている。特に,大学生アスリートの場合,バーンアウトやキャリア不安など,心理的な問題が深刻化することがある。そのため,ライフスキルの獲得を目指す開発的教育は,大学生アスリートの心理面の改善に必要な支援策になると考えられる。そこで本研究では,ライフスキル獲得を阻害する要因に着目し,「運動部活動へのコミットメント(以後,コミットメントと略)」,「スポーツへの情熱(以後,情熱と略)」,「ライフスキル(個人スキル・対人スキル)」,「ストレッサー認知(以後,ストレッサーと略)」の5つの変数をもとに仮説モデルを設定し,各変数間の因果関係を検討することを目的とした。

【方法】スポーツ推薦入試制度にもとづく,強化運動部の学生272名(男性228名・女性44名,平均年齢19.9歳,SD=1.15)を対象とし,質問紙調査を集合調査法にて行った。調査は無記名式・回答拒否の自由の保障・個人情報の厳守を説明して実施された。調査内容は,1)日常生活スキル尺度,2)大学生アスリートの日常・競技ストレッサー尺度,3)運動部活動へのコミットメント評価尺度,4)スポーツへの情熱尺度であり,相関分析・共分散構造分析による分析を行った。

【結果】相関分析の結果,「コミットメント」および「情熱」と,ライフスキル尺度の下位尺度である「対人スキル」および「個人スキル」との間には正の相関が認められた。また,「情熱」は「ストレッサー」と有意な正の相関を示した。さらに,共分散構造分析の結果,「コミットメント」および「情熱」から「ライフスキル」への有意なパスは認められたが,他の変数間には,統計的に有意なパスは認められなかった。

【考察】分析結果から,大学の強化運動部に所属するアスリートのように,スポーツへの関わり方が強いと想定される学生を対象とする場合でも,ライフスキルの獲得過程において,スポーツ経験が阻害要因となるという仮説は棄却され,むしろスポーツとの関わりが,ライフスキルの獲得に有効であることが示された。今後の課題として,ストレス反応を変数として含めた分析モデルを用いて,対象者を一般学生にまで拡大して検証することが挙げられる。

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© 2012 日本学校メンタルヘルス学会
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