システム農学
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研究論文
景観から見た糞虫の多様性をもたらす放牧草地の立地条件
井村 治佐々木 寛幸時 坤森本 信生
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2011 年 27 巻 1 号 p. 9-20

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抄録

草地が持つ生物多様性保全機能を発揮させ、その生態系サービスを利用する持続的家畜生産の方策を探るため、放牧草地において糞虫(家畜糞を食べ、糞の分解を促進するコガネムシ上科の昆虫)を調査し、周辺の景観を分析することにより、草地の糞虫の多様性をもたらす放牧草地の立地条件を明らかにする研究を実施した。糞虫の調査は栃木県北東部の18 の放牧草地で早川式牛糞トラップを用い、1999 年から2001 年の放牧期間にあたる5 月から10 月まで毎月1 回実施した。第5 回環境省自然環境保全基礎調査の植生データから糞虫の生息に影響を与えると考えられる主要な10 の景観要素(落葉広葉樹、針葉樹、人工林、低木、草本、水田、畑、牧草地、市街地、水域)を抽出した。調査地点ごとに調査地点を中心にした4 km 四方の区域について、各要素のフラクタル次元を粗視化法で算出した。センチコガネ亜科(Geotrupinae)、ダイコクコガネ亜科(Scarabaeinae)およびマグソコガネ亜科(Aphodiinae)に属する25 種49,577 個体の糞虫が捕獲された。森林性のPhelotrupes laevistriatus、Copris acutidens およびOnthophagus nitidus を除くと、草地または草地と森林を生息場所とする種であった。調査地点ごとに見ると記録された種数は7 種から17 種まで異なっており、放牧草地の糞虫の多様性に大きな違いが見られた。糞虫種数を目的変数、また各景観要素のフラクタル次元を説明変数とした変数選択型重回帰分析を行い、係数がプラスの落葉広葉樹と牧草地および係数がマイナスの人工林のフラクタル次元を変数とする予測モデルを得た。予測モデルに基づいて調査地域内の糞虫の多様性地図を作成し、用いた手法と予測結果について議論した。

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