システム農学
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研究論文
ベトナム中部Tam Giangラグーンに居住する世帯の暮らしと貧困の状況
TRAN Thanh Duc田中 樹水野 啓小林 広英岡本 侑樹LE Van An
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2011 年 27 巻 4 号 p. 159-166

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抄録

近年、ベトナムは急速な経済発展を遂げている。一方で、ベトナム中部、中南部および北部山岳地域では、貧困問題の解決に向けた取り組みがなされている。貧困削減は、依然として地域開発支援における緊急の政策課題である。異なる社会・生態的環境のもとで、人々の暮らしや生業、世帯経済は多様であり、貧困の度合いやその状況は一様ではない。貧困削減に向けた地域開発支援の前提として、農業生態的特徴、生業活動および貧困に関わる生活環境について、地域の特性を踏まえて把握することが必要である。Tam Giang ラグーンに位置するHuong Phong コミューンのVan Quat Dong村とTien Thanh village村を調査地として、本研究では、生業活動と世帯収入源の特徴、貧困に関係する暮らしの状況の特定、これらの状況とベトナム政府が定める貧困指標(経済指標)との比較を行った。対象地域の主たる世帯収入源は、稲作、家畜飼養、ラグーンでの養殖であった。中でも、稲作は、種生業であり、世帯収入の多くを占めていた。これらの生業活動が行われる場は、低地であり、しばしば季節的な洪水に見舞われる。貧困指標(経済指標)に従うと、貧困世帯の割合は、Van Quat Dong 村で24%、Tien Thanh village 村で20%を数えた。一方で、貧困を反映すると考えられる幾つかの状況をみると、季節的洪水に比較的脆弱と思われる家屋が81%、トイレのない世帯が40.5%、慢性疾患を持つ家族を抱える世帯が40%であった。し尿やごみ、家畜小屋からの汚水は、暮らしに利用される周辺の河川や水路、ラグーンに流れ込んでいた。これらの数値の比較は、貧困指標のみで必ずしも地域の実態をうまく説明できないことを意味し、貧困の程度を知るには、自然災害への備え、衛生、健康および栄養状態などを考慮する必要があることを示している。

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