カンボジア・ラタナキリ州に住む少数民族ジャライの人びとは伝統的な焼畑農業を営んできた。しかし、近年、大規模プランテーション開発や農家レベルでの換金作物生産の拡大などの経済開発が進み、焼畑農民に種々の影響を与えてきた。このため、このような急激な開発の持続可能性や妥当性を検討する上で、ジャライ農民の伝統的焼畑農業がどのような状況にあるかを知ることが重要になってきている。本研究では、衛星画像解析手法と質的研究手法を用いて、ジャライの人々が行っている焼畑農業に関する伝統的行事や農法、土地利用パターンについて明らかにすることを目的とした。衛星画像解析では、ALOS AVNIR-2 およびWorldview-1 衛星画像データから教師付き分類法により土地利用・土地被覆状況を把握し、ジャライの焼畑農業は換金作物農業と混在する形で変容しつつあることを明らかにした。また、質的データの分析からは、ジャライの焼畑農業が彼らの伝統行事と慣習的土地所有制度に密接に関連した多毛作農業であることが明らかになった。近年、ラタナキリ州全体で推し進められている経済開発は、ジャライの焼畑農業、そしてジャライ社会全体に大きな影響を与えつつある。