日本移植・再生医療看護学会誌
Online ISSN : 2435-4317
Print ISSN : 1881-5979
原著
造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験
細田 志衣
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2022 年 17 巻 p. 29-42

詳細
Abstract

目的:本研究は、造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験を明らかにし、患者と家族への看護支援を検討することを目的とした。

方法:慢性GVHDと診断を受け、外来通院中の患者の家族9名に半構成的面接を行い、その内容を質的記述的に分析した。

結果:家族は【命があることに感謝する体験】【慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】【思い描いた未来が阻まれる体験】といった体験の中で【家族として支える覚悟をもつ】【今を大事に家族としてできることを模索する】【対立しないように距離をとる】【感情を吐露する】【患者以外の他者と体験をわかちあう】といった取り組みを用いながら患者を支えていた。

考察:長期化する慢性GVHDを有する患者の家族は、先の見えない経過をたどる中で患者の回復を願い、家族として何ができるのかといったことを考え続けていた。その中で患者の状況がとらえ切れないことにより不安や苦痛を感じていることも明らかとなった。したがって患者と家族のコミュニケーションを促す支援や家族が相談できる機会と場の提供が必要であると考える。

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to identify the experiences of family members supporting a patient who developed chronic GVHD after hematopoietic stem cell transplantation and to examine nursing support for the patient and family to examine nursing support for patients and their families.

Methods: Semi-constructive interviews were conducted with nine family members of a patient diagnosed with chronic GVHD who was attending an outpatient clinic. The content of the interviews was analyzed qualitatively and descriptively.

Results: The family members described their experiences of gratitude for having life, suffering from the uncertainty of chronic GVHD, and The family members were asked about "their experiences of being thankful for the existence of life, " " suffering from the uncertainty of chronic GVHD, and" being prevented from having the future they had envisioned. "

They supported the patients by using the following approaches: "being prepared to support them as a family," "seeking what they can do as a family to cherish the present," "keeping a distance to avoid confrontation," "revealing their feelings," and "sharing their experiences with others besides the patients".

Conclusions:Families of patients with prolonged chronic GVHD continued to wish for the patient's recovery and to think about what they could do as a family in the face of the uncertain course of the disease. It became clear that they felt anxious and distressed because they could not fully grasp the patient's situation. Therefore, we believe that it is necessary to provide support to encourage communication between patients and their families, and to provide opportunities and places where families can consult with patients.

Ⅰ 研究背景

慢性移植片対宿主病(Chronic Graft-versus-Host Disease:以下、慢性GVHD)は移植後の免疫反応によって生じ、患者のQOLに多大な影響を及ぼす造血幹細胞移植後合併症のひとつである。非血縁者間の末梢血幹細胞移植や高齢のレシピエントの移植は慢性GVHDの発症に影響を及ぼす(諫田,2013)ことが明らかになっている中、移植件数は増加を辿っている(日本造血細胞移植データセンター,2022)。さらに移植技術ならびに支持療法の進歩により、高齢者に対する移植、複数回移植やHLA半合致移植などが日常的に実施されるようになり、GVHDハイリスク移植が増加している(森,2022)。

造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者は全人的な苦悩を抱いており、さらに患者は周囲との関係に思い煩い、周囲からの心無い言葉や対応によって苦悩を深めていた(福島,2006)。さらに慢性GVHDによるボディイメージの変化等がパートナーや家族との関係性に重要な影響を及ぼしている(Nørskov ら,2015)報告もみられる。がん患者と家族のパートナーシップに関する先行研究からは、患者は家族成員に心配や負担をかけたくないという家族成員への思いやりが強すぎることで無理をしており、我慢し過ぎる可能性が示唆されており、患者家族成員どちらであっても「話したくても話せない」状況により両者のQOLが低下していた(大野, 2005安永,2015)。造血幹細胞移植後に男性患者の退院後の生活に配偶者が対処するプロセスを調査した結果では、配偶者の気がかりは時間とともに変容していたが、再発や移植片対宿主病などの病状や経済的な困窮への不安は続いていることが明らかにされている(横田,2015)。しかし本邦において慢性GVHDを発症した患者をもつ家族に焦点をあて体験を記述したものは少ない。

そこで本研究は、造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験を明らかにし、患者と家族への看護支援を検討することを目的とした。今後増加が見込まれる慢性GVHDを発症した患者と家族に働きかけQOLを高める支援について示唆を得ることで、移植後長期フォローアップ外来での看護やがん相談支援センター、ピアサポートグループへの支援などに活用できると考えた。

Ⅱ 用語の操作的定義

1 造血幹細胞移植

ドナーに関わらず骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の治療の総称。

2 慢性GVHD

造血幹細胞移植後100日前後から発症する自己免疫疾患に類似した組織障害を起こす移植後の合併症。

3 家族

情緒的な結びつきがあり、お互いに家族であると自覚している人々。

4 体験

慢性GVHDの診断を受けた患者と過ごす中で自己の心理、社会的側面に対し主観的に感じている内容。

Ⅲ 研究方法

1 研究デザイン

質的記述的研究デザイン

2 研究対象者

日本国内において15歳以上で造血幹細胞移植を受け、移植後に慢性GVHDと診断を受け外来通院中の患者の家族で、主治医より慢性GVHDの説明を受け、日本語での意思疎通が可能であり、研究の主旨を理解し、研究協力に同意の得られた者とした。

3 研究対象者募集方法

造血細胞移植治療を実施している医療施設からの紹介と患者会によるネットワークサンプリングを用いた。研究対象基準にそった対象者の選定は、個人情報保護の観点から、医療機関からの紹介の場合は主治医もしくは看護師が行った。患者会の場合は、患者会代表者に対象者の選定を依頼した。主治医もしくは看護師、患者会から研究対象となる候補者に研究概要を情報提供し、研究に関心を示し、研究者に紹介することに同意の得られた方を研究候補者として紹介を受けた。研究候補者に研究概要等について口頭と文書を用いて説明し、文書による同意を確認し研究対象者として協力を得た。

4 データ収集方法と調査内容

半構成的面接法を用いた。プライバシーの保たれる面談室などで1人1回60分程度とし、慢性GVHD発症後の家族の体験と家族からみた患者の体験、家族が抱えるつらさや悩まれていること、悩まれていることへの取り組み、医療者への要望等について自由に語ってもらった。面接の内容は、対象者の同意を得てICレコーダーに録音した。また対象者の背景を知るために①年齢、②患者との続柄、③慢性GVHDの発症からの経過年数、④移植後経過年数、⑤患者の有する慢性GVHDの症状と現在の治療について質問紙を用いて尋ねた。

5 分析方法

インタビューで得られたデータは逐語録を作成し、文節ごとに意味内容の抽出を行った。特に「患者が慢性GVHD発症後の家族の体験」「家族が抱えるつらさや悩まれていること」「つらさや悩まれていることに対する考えや取りくみ」に関する内容を抽出し、コードとした。コードを意味内容の類似性に従って分類し、サブカテゴリーとし、類似するものを集めてカテゴリーとし名称をつけた。コードの抽出の際には、できる限り対象者の語った表現を残し、具体的な内容や意味内容が損なわれないように留意した。

6 倫理的配慮

本研究は、研究者の所属する機関の研究倫理審査委員会の承認(承認番号:16-A023)を得て実施した。対象者に研究目的、方法、プライバシーの保護、研究の参加の中断や拒否をしても不利益を被ることはないことについて口頭と書面で説明し、文書で同意を得た。 面接は、家族の生活に支障をきたさない時間に、プライバシーの保たれる個室で行い、対象者の語りを肯定も否定もせず傾聴した。

Ⅳ 結果

1 対象者の属性(表1)

9名の家族から研究協力を得た。対象者の属性を表1に示す。対象者は男性4名、女性5名で平均年齢58.3歳(31~81歳)であった。患者との関係は親が3名、配偶者が5名、同胞が1名で、患者と生計を共にするものが8名であった。8名の家族はフルタイムで就業をしていた。患者の慢性GVHD発症からの経過年数は、2年から15年、平均経過年数は5.7年であった。患者は肺、皮膚や眼など複数の慢性GVHDに伴う症状を有しており、2 名は肺GVHDにより在宅酸素療法を行い、1名は血液透析を受けていた。すべての患者が、免疫抑制剤による治療を継続し、1週間~1か月に1回の頻度で外来通院をしていた。

表1 対象者の基本属性
家族の性別 家族の年齢 患者との関係 患者の性別 患者の年齢 慢性GVHD発症からの経過年数
(移植後経過年数)
現在治療中の慢性GVHD
60代 同胞 50代 3年(3年5か月) 肺・眼
50代 配偶者 50代 2年(2年4か月) 皮膚・眼
40代 配偶者 40代 6年(6年4か月)
60代 配偶者 50代 4年(4年3か月) 肺・皮膚・眼
30代 配偶者 30代 6年(6年6か月)
40代 配偶者 40代 7年(7年3か月) 皮膚・眼
60代 30代 12年(12年4か月) 肺・皮膚
80代 50代 15年(15年5か月) 皮膚・眼
60代 30代 6年(6年5か月) 皮膚・眼

2 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験

分析結果を表2に示す。文中の【 】はカテゴリー、《 》はサブカテゴリー、「  」は語りの内容を示す。語りを記述する際は、9名の対象者をそれぞれA氏~I氏として表記した。造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験は86のコード、8のサブカテゴリー、3カテゴリーに分類された。カテゴリーはその内容から【命があることに感謝する体験】【慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】【思い描いた未来が阻まれる体験】とした。

表2 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験
カテゴリー サブカテゴリー
1命があることに感謝する体験 慢性GVHDを有しても共に生きていることに感謝する
入退院を繰り返しても命があることに感謝する
2慢性GVHDの不確かさに
苦しむ体験
慢性GVHDはいつまで続くのかと思い悩む
慢性GVHDの治療に期待できず先が見えない
改善と悪化を繰り返す慢性GVHDに一喜一憂して苦しい
3思い描いた未来が阻まれる
体験
描いていた家族像は阻まれる
子どもをもつのは難しいだろうと葛藤する
家庭をもち幸せになってほしいと願うのはあきらめる

【1.命があることに感謝する体験】

「医師から詳しく説明を聞いてGVHDが起きるのも分かるし、起きても、きちんとケアしていけばいいみたいなところがあるので、全然衝撃も受けないし、悲壮感もないし。見通しがあったので。今共に生きていられることで充分」(C氏)と語り、「医師から今度入院したらもう助けられないかもと言われている。だから今、酸素をつけて要介護の状況でも一緒に生きてる。毎朝今日も生きていることだけでありがとうって感謝してます。」(A氏)や「人工呼吸器までつけて何度も入院して、奇跡的に盛り返して、今こうして過ごせているだけでありがたいと思う」(B氏)と「目薬もサングラスも外せないし、爪が割れるんですよね。大変でね。いまだに手袋をしてね。でも命が助かったんだから感謝しないとね。」(G氏)と語り、《慢性GVHDを有しても共に生きていることに感謝する》《入退院を繰り返しても命があることに感謝する》の2サブカテゴリーから構成され、8名の対象者から抽出された。

【2.慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】

「咳も多くて息切れもしていて、代わってあげたいけど見てるしかないもんで。ちょっとつらいです。どのくらいまで続くのか、これから先ずっとつきあっていかなくちゃいけないのか、その先どうなのかなっていう、それが一番心配です。」(D氏)や「5~6年は様子見てください、みたいに言われた。ああ、5~6年、結構そこそこ、長いよなっていう…。」(F氏)や「プレドニンとネオーラルで、もう体ぼろぼろですよね。全身が、視力も歯も皮膚も乾燥したり痒かったり、薬の量が下がって喜んだら、また増えてまたダメなのかと落ち込んでその繰り返しで…。」(H氏)長期間にわたる免疫抑制剤使用の影響と慢性GVHDの症状に一喜一憂する気持ちを語った。「すごく咳込んでいた時、大丈夫なのかなっていうふうに、これがずーっと続いて、それはもうしょうがないみたいなこと言われると、でも本当にそれでいいのか、先が分からないんですよね。」(I氏)といった語りが得られ、《慢性GVHDはいつまで続くのかと思い悩む》《慢性GVHDの治療に期待できず先がみえない》《改善と悪化を繰り返す慢性GVHDに一喜一憂して苦しい》の3サブカテゴリーから構成され、6名の対象者から抽出された。

【3.思い描いた未来が阻まれる体験】

「普通だったら奥さんがいて、子どもがいてっていう年齢ですよ。一番かわいそうなのは、結婚とか普通の人生が歩めないんですよね。」(H氏)や「家族が病気をすると諦めなきゃいけないことも、看る方にもいっぱいあって。私の中で一番、やっぱり大きかったのは、もう子どもが産めないんだっていうことだった。でも、母に言ったら、『まあ、あんたは産めるけどね』って言われたんで。傷ついて我慢して、誰にも言えないで、1人で抱えていたんで…。」(A氏)と涙ながらに語った。「子どもがやっぱりできなかったのが、彼女には大きいんじゃないんですかね、一番。(中略)卵子採って仮に妊娠しても肺に来ちゃったから、妊娠して体が耐えられなくなったら、分かんなかったような気もするし。まあね、僕としては子ども産んで死んじゃったらそれは後悔する。彼女の両親は分かんないけど、僕は後悔するから、(妊孕性温存治療するかどうかの話の時も)彼女も僕の両親も反対して暗黙の了解みたいに諦めたけど。もうこんな感じだから厳しいよね…。」(B氏)と語り移植前の妊孕性温存治療に関する意思決定の状況から現在の気持ちを語った。《描いていた家族像は阻まれる》《子どもをもつのは難しいだろうと葛藤する》《家庭をもち幸せになってほしいと願うのはあきらめる》の3サブカテゴリーから構成され、6名の対象者から抽出された。

3 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験に対する取り組み

分析結果を表3に示す。文中の【 】はカテゴリー、《 》はサブカテゴリー、「  」は語りの内容を示す。造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験は105コード、14サブカテゴリー、5カテゴリーに分類された。カテゴリーはその内容から【家族として支える覚悟をもつ】【今を大事に家族としてできることを模索する】【対立しないように距離をとる】【感情を吐露する】【患者以外の他者と体験をわかちあう】とした。

表3 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の取り組み
カテゴリー サブカテゴリー
1家族として支える覚悟を
もつ
運命に抗わず支える覚悟をもつ
家族だからこそ支え合って生きる決意をする
2今を大事に家族として
できることを模索する
本人の不安やつらさを理解しようと努める
本人のしたいことをくみ取り実現につなげる
同じ時はないので今を大事にできることを模索する
3対立しないように距離を
 とる
本人を刺激しないように状況を尋ねない
苛立っている時は近づかない
自分が平静を保てない時は離れて過ごす
対立を避け穏やかに過ごせるように努める
4感情を吐露する 我慢せずに感情を発散する
本人が一番つらいので、本人のいないところで感情を吐露する
5患者以外の他者と体験を
わかちあう
(家族会や医療者の前で)患者に言えないことを話す
(家族会で)医療者や周囲とは話せないことをわかちあう
(家族会で)慢性GVHD症状について他の家族の工夫を知る

【1.家族として支える覚悟をもつ】

「いつもいつも病気のことから頭が離れないし、不安なことだらけだし。それこそ自分の作ったご飯を食べて、自分の掃除したところで生活をしていくわけですから、私のやり方がちょっとでも間違ってたから命を落とすんじゃないかとか、そういう不安の中で、ずっと生活している。でも運命に抗わずに支える覚悟をもってる。」(A氏)や「爪がボロボロになってテーピングしたりとか、背中に軟膏塗ったり色々支えないとっていうのはあるけど、私にできることで支えないと。」(C氏)や「私のほうが変わったかなって思いますね。前は、きょうだいだから、そんなに一緒に出歩くわけでもないし、ましてや散歩なんて、考えてもみなかったけど、昼間は仕事でいないので、夜、毎日、雨が降らない限りは家の周辺を散歩してコミュニケーションが増えました。今は支え合って生きてるって感じです。」(F氏)と語り、《運命に抗わずに支える覚悟をもつ》《家族だからこそ支え合って生きる決意をする》の2サブカテゴリーから構成され、5名の対象者から抽出された。

【2.今を大事に家族としてできることを模索する】

「本人がどう思ってるかはよく分かんないんで、どうしたらいいのかなって、いつも思っていますけど。ちょっとした時に言ったことをなるべく実現しようと思っていて。応えられてるか分かんないんですけど、諦めないように。諦めなきゃいけないことはいっぱいあるから、諦めないでいいよって思っていて、やりたいこととか、本人があんまり負担にならないように動けるようにフォローをしているつもり。」(A氏)や「精神的な部分のケアって、できないじゃないですか。分からないっていうのか。移植後はもう実際に症状が現れてるから、ある程度のことは家族としても分かるけれども、でも、やっぱり病気が病気だから、本人がやっぱり死っていうのは常に、背中合わせなんです。きっと。その不安。不安を、家族がどこまで分かってあげられるかっていうのっていうのが、分かってるつもりでいても、やっぱりそれは違いますよね。本人の、実際の恐怖感は本人しか分からない。推し量ったとしても、推し量れないって部分があるから、本人の不安やつらさを理解しようと思うけど」(E氏)や「ぱっと見、まあ元気そうに見えるんですけど、肺のGVHDなんでちょっと無理すると寝込んだりとか、内臓とか疲れてなんか胃が痛いとか腸が痛いとか何日間か寝込む状態になっちゃうから、仕事もできない。だから家のことじゃなくて、明日がどうなるか分からないから今を大事に、やりたいことがあったら、やってもらって構わないって言って、やってもらってますけどね。」(B氏)と語った。《本人の不安やつらさを理解しようと努める》《本人のしたいことをくみ取り実現につなげる》《同じ時はないので今を大事にできることを模索する》の3サブカテゴリーから構成され、9名の対象者から抽出された。

【3.対立しないように距離をとる】

「調子のいい時は向こうから話しかけてくる。でも私が意に反したことを「ん!」って怒る。だから特別扱いじゃないけど、腫れものに触るようになっちゃうんですよ。苛立ってるなって時は、近づかない。」(H氏)や「比較的患者の意志がはっきりしてる人だと、先生方もその後ろの家族ってところまではその時は、あんまり意識されてないと思うんですね。彼は、全部自分で1人で決めます、やりますっていうようなタイプだったので、家族には言わないでほしいっていうのを先生に言ってたみたい。悪くなっていく経過とか、全然こっちは知識が何もない状態なんですよね。知られたくないと思うんですよね、今の自分の状況を。外来に一緒に行くっていうことは、たぶん絶対嫌がると思うので付いていけない。」(I氏)や「彼は寒がったり。暑かったり。28とか30度までエアコン上げるんですよ。そうすると私、眠れない。暑すぎて眠れないので今、寝室別にしてるっていう形で。彼は彼の療養のために好きなように温度上げてくださいって。」(C氏)お互いが穏やかに過ごすために寝室を別にするようになったと語った。「埃だとか、例えば建設現場とか、ああいうところには近づかないようなとか、色々注意を受けましたのでね、気にはしましたけどね。彼もちょっと埃があったりするとね、怒ったりして。エアコンを交換したりとかね。ちょっといらついていたこともあったなあ。そんな時は静かに離れてました。」(G氏)と語った。《本人を刺激しないように状況を尋ねない》《苛立っている時は近づかない》《自分が平静を保てない時は離れて過ごす》《対立を避け穏やかに過ごせるように努める》の4サブカテゴリ-から構成され、5名の対象者から抽出された。

【4.感情を吐露する】

「本人に『何で、お前が泣くの。お前、痛くも何ともないでしょ』とすごい言われて、すごい腹立ったの。まあ、なんかやっぱりね、悲しくもなるし、まあ泣くこともあったんですけど。今は本人の前ではださないようにしている。」(A氏)や「同じくらいの年齢に人をみると『なんでうちだけ』って思っちゃったり、本人には言うとかわいそうだから言わないことを、旦那にはそういう気持ちはよく話します。」(H氏)や「ずーっと咳込んでると自分も寝れないから、それが何日も続くとやっぱり睡眠不足になって、お互い睡眠不足になってるからイライラしてくるんですよね。で、その、ちょっと寝れなくてきついと言っちゃうときもあったし、結構当たった。彼のせいではないのに…後から後悔した。」(Ⅰ氏)と語った。《我慢せずに感情を発散する》《本人が一番つらいので、本人のいないところで感情を吐露する》の2サブカテゴリーから構成され7名の対象者から抽出された。

【5.患者以外の他者と体験をわかちあう】

「(家族会で)皮膚のことや、爪はマニキュアを塗ってるとかね。お皿は熱湯消毒するとかそういう情報は、結構助かりました。」(G氏)や「家族同士がつながることが必要なんじゃなくて、家族は家族で、みんな一緒じゃないので、それぞれ抱えてる問題を吐き出せる場が病院にあるのが理想だなと思ってます。」(A氏)や「『口が渇くんです』って言ったらこういうゼリーみたいなのとか、うがい薬とか、こんなのがありますよって。自分達で調達できるようなものを色々、生活の工夫? QOLを達成するためのいろんな知恵を教えていただいて帰ってくる」(C氏)と語った。《(家族会や医療者の前で)患者に言えないことを話す》《(家族会で)医療者や周囲とは話せないことをわかちあう》《慢性GVHD症状について他の家族の工夫を知る》の3サブカテゴリーから構成され、5名の対象者から抽出された。

Ⅴ 考察

慢性GVHDを発症した患者の家族は【1命があることに感謝する体験】【2慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】【3思い描いた未来が阻まれる体験】を経て、患者と共に生きるために様々な取り組みを行っていた。そこで慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験と取り組みおよび看護支援について考察する。

1 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の体験

本研究で明らかになった体験で最も多くの対象者が【1命があることに感謝する体験】をしていた。家族は、患者が慢性GVHD症状の重篤化や感染症により入退院を繰り返す中で、大事な家族との死別の不安や脅威に直面せざるをえない状況にある。家族成員である患者が慢性GVHDの悪化により状態が低下しているなかでも 「今日も生きている、一緒にいることができるだけで充分」と語ったように、患者の存在や共に過ごせることへの喜びや感謝が生まれていると考える。人は何かに向けて親密なつながりを持つことができると肯定的な気持ちになれ、喜びや感謝や勇気や希望が湧き、人生に対して充足感や満足感を体験することができると述べている(林,2005)。終末期がん患者を自宅で看る家族成員が苦労やつらさの中に,少しでも心がやすらぐひとときを感じられることや自分が看ることに価値をおき、家族の一員である患者の存在を改めて感じ,患者との時間を大切にしていく家族の思い(坂井,2022)を感じているように、慢性GVHDにより心身につらさを抱える患者を思い、共に過ごせる時間が有限であることを感じている中での体験であると考える。

家族は【1命があることに感謝する体験】と同時に、慢性GVHDがいつまで続くのか、症状の改善と悪化を繰り返す中で【2慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】をしていた。本カテゴリーは慢性GVHD発症から6年以上と長期間を経過した対象者から抽出されていた。(Merle,1998)は「不確かさとは病気に関連して起こる出来事に明確な意味を見出せでない状態である」と定義している。慢性GVHDは、症状が不安定で再燃する可能性もあるために患者自身も無力感を抱いている(福島,2006)。慢性GVHDを有し頻回な外来通院が必要な患者は、家族が生計を担うために就業している場合など外来受診に同行できないケースもみられる。患者は「家族に余計な心配をかけたくない」という思いから自身の苦痛や感情を打ち明けないことがある(Dillen,2013)。患者から家族に対し、現在の状態が伝えられず、家族が状況をつかめないことは、さらに家族自身の慢性GVHDに対する不確かさをつのらせると考える。不確かさをつのらせることによって、患者だけでなく家族も無力感や孤独感を高める可能性も懸念される。一方、「慢性的な不確かさの経験において 不確かさはネガティブな影響を及ぼすばかりではなく、 人生に対する新しい見方を提供してくれる可能性もある」(Merle,1998)と述べているように、患者と家族が捉える新しい見方を理解し支えることが必要であると考える。

さらに《子どもをもつのは難しいだろうと葛藤する》《家庭をもち幸せになってほしいと願うのはあきらめる》といった発症時の患者の年齢がAYA世代の対象者から【3思い描いた未来が阻まれる体験】が得られた。AYA世代は、身体的・精神的な成長発達のなかにあり、進学、就職、恋愛、結婚などのライフイベントを経験する時期である(清水, 2018)。疾患の罹患や慢性GVHD症状の長期化は、本人を支える親や配偶者の立場にある家族も思い描いていた未来を諦めざるを得ないことによる葛藤や苦悩につながるものである。がんの診断を受けた子どもの親は罪悪感などの感情を抱き、不安や抑うつ、心的外傷ストレス症候群などの精神症状を呈することや診断からの時間が経過しても長期にわたり持続する可能性がある(Ljungman, 2014)。本研究では、9割の方が妊孕性について語られており、造血器腫瘍の診断時や造血幹細胞移植治療前も治療による不妊のリスクについて知らされた人も説明を受けた記憶がない対象者もみられた。造血幹細胞移植に伴う前治療に加え、慢性GVHDも性腺機能に影響を与える(日本がん・生殖医療学会,2022)ことが明らかにされている。いつかは子どもがほしいと希望しているカップルにとって不妊の事実を突きつけられることや、子どもをもつことを断念しなければならない状況に置かれることは、がんの告知に加えて、絶望、無念といった深い心理的負担を与える(北野,2018)。本研究対象者は造血幹細胞移植から4年から15年経過後も持続する慢性GVHD症状を抱える患者を支えながら【3思い描いた未来が阻まれる体験】を抱えており、長期にわたる葛藤や苦悩に苛まれている現状が明らかにされた。

2 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族の取り組み

本研究では【1命があることに感謝する体験】に対する取り組みとして【1家族として支える覚悟をもつ】【2今を大事に家族としてできることを模索する】の取り組みが用いられていた。これらは慢性GVHD発症5年目以降の対象者から得られたものであり、慢性GVHD症状の重症化による入退院を繰り返す中で、状態の低下を目の当たりにして変わりゆく患者の変化に不安を感じながらも家族として回復を祈り支えたいという決意から生じたものと考える。状態は異なるが、終末期がん患者の家族が、最期までがん患者と共にいるという姿から、家族は家族であった証を感じ、家族として刻んできた歴史と一緒に過ごした空間を大切にしようとする姿が示されている(山手,2010)。本研究の対象者の8名は、家計を支えるために就業していた。患者が慢性GVHD症状の増悪と緩解を繰り返す中で、今と同じ状態がいつまで続くか分からないという中で、少しでも苦痛を緩和し、今できることを大事にするために患者の心身の思いを理解し家族成員である患者の思いを叶えようとしていたと考える。健康な家族の特性として、相手の話に耳を傾け、バランスをとりながら互いを肯定し支援すること(Hanson,2005)を挙げている。つまり健康な家族とは、相互に信頼や尊重と十分なコミュニケーションを図りながら協働する相互作用の状態を示すパートナーシップを発揮している(Gallant,2002)といえる。本研究の対象者は「同じ日はもう来ないから、できないことに嘆くだけでなく、今できることを一緒に楽しまないと」と語り自らの取り組みに意味を見いだしていた。意味を見いだすということは、人生における避けがたい危機的状況や苦悩に対する肯定的な対処である(平,1997)と述べているように【1家族として支える覚悟をもつ】【2今を大事に家族としてできることを模索する】は、患者を支え共に歩むことに意味を見いだす中での生じた肯定的な取り組みであると考える。また【5患者以外の他者と体験をわかちあう】取り組みから【1家族として支える覚悟をもつ】【2今を大事に家族としてできることを模索する】取り組みにつながる対象者もみられた。家族は、家族会への参加を通じて、慢性GVHD症状に伴うケアの方法や生活の工夫を得ると共に、互いの経験を共有する中で、悩んでいるのは自分だけではないことを知り、情報的サポートや情緒的サポートを得る機会となっていたと考える。ピアサポートの効果には、当事者交流からの共感や日常生活における実践的な情報、お互いに支え合うという相互作用からの自尊心を取り戻す効果が示されている(高橋, 2003)。さらに医療者から患者自身の慢性GVHD症状に合わせたケアの方法を知る中で【1家族として支える覚悟をもつ】取り組みにつなげていたと考える。

一方、【2慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】【3思い描いた未来が阻まれる体験】に対する取り組みとして【3対立しないように距離をとる】と【4感情を吐露する】を同時に用いていた。これらの取り組みは、《本人を刺激しないように状況を尋ねない》といった患者自身が苛立ちや家族から距離を取ろうとする行動に対して家族が、対立を避けるための情緒的対処行動の一面に加え慢性GVHD症状がもたらす身体変化に対し、室温調整し休息や療養となるよう家族が気遣う問題解決的対処行動の2側面から得られたものである。前者は、慢性GVHDを発症した患者が家族に迷惑をかけたくないという思い等から、自らの困難やつらさを表出せず家族に支援を求めない行動によって、家族は患者のつらさが理解できずに対応に困惑することが考えられる。一方で患者自身も長期化する慢性GVHD症状による心身の疲弊や苛立ちを抱えることで孤独感を強める可能性も考えられる。

【4感情を吐露する】の取り組みを用いたことで、患者に諫められた後は患者の前では控えるようになったと語る対象者や意図せず患者を傷つけてしまったと悔やむ対象者もみられた。本人の苦悩と対峙するなかで、家族自身の不安や葛藤が蓄積されていたといえる。患者は,がんである苦しみを確かに感じ、家族にさえも理解されない自己、家族の中でこれまで果たしてきた役割を全うできず、新たな役割も獲得しきれない自己を感じ、自分自身の存在の不確かさに苦悩している(大橋,2020)。本研究で表現された感情とは家族の抱える葛藤や疲労から生じたつらさを表現した対処行動であった。患者に対し家族自身が負の感情を表出することは、患者自身の苦悩を深め、家族間のコミュニケーションが膠着する可能性がある。状況は異なるが、がんの進行に伴い生じてくる患者・家族間のコミュニケーションについて、家族が患者をかばって守ってやらなければならない存在として認識することによって家族間の相互扶助的関係に変容が生じ,両者のコミュニケーションに乖離が生じるとしている(加藤,2013)。【3対立しないように距離をとる】といった取り組みに偏ることは、家族自身も【2慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】が持続し患者と家族の心理的な距離も拡がる危険性がある。一方、患者と家族の相互理解が進むことによって、互いの精神的苦悩の緩和にもつながると考える。

3 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者と家族への看護支援

本研究から明らかになった家族の体験と取り組みから、患者と家族への看護支援について考察する。まず看護師は、患者と家族の健康状態や多重課題の状況を理解するために、家族の思いを引き出すと共に家族のもつ力を発揮できるように支援することが必要であると考える。(Walsh,2016)は,危機状況を通じて、家族が家族として集結し回復していく可塑性のことをファミリーレジリエンスと定義している。ファミリーレジリエンスが発揮され、患者と家族の希望を叶えるために慢性GVHDがもたらす症状と生活の中での工夫が促進されるような支援に加え、制限だけでなく、できることを見出し楽しもうとする患者と家族の思いを理解しようとする姿勢が必要であると考える。

さらに家族自身が命さえ助かれば、慢性GVHDは仕方がないと諦めてしまうことなく、長期フォローアップ外来などの機会を通じて、慢性GVHDがもたらす症状による苦痛を緩和し、患者と家族を支えるソーシャルサポートが充実するように、家族の思いを受け止めながら、家族内だけで抱えこみ疲弊することがないように働きかけていくことが必要であると考える。したがって患者と家族のコミュニケーションを促す支援や家族が相談できる機会と場の提供が必要であると考える。家族が抱える負の感情を理解し、患者も家族も孤立することなく相談ができる機会やピアサポートの紹介が必要であると考える。

家族の多くは、家計を支えるために就業をしており、家族会への参加や外来受診の同行を希望しながらも、実現が困難な場合も多い。そのため患者が家族と現在の状況を共有することの重要性を働きかけることに加え、家族の疑問や不安に対し、現在の状況や今後の治療の見通しなどの情報提供や家族が相談できる機会を検討し、情報不足による不確かさの助長を避ける必要があると考える。慢性GVHDの複雑な病態や治療薬の調整について、全て患者自身が家族に説明をすることは困難さや心理的負担を感じる可能性も高い。したがって外来受診に同行が難しい家族に対して冊子等を用いた情報提供によるサポートを強化することや、対面以外でも家族同士がつながる機会の検討が必要であると考える。

次に、看護師は、AYA世代にある個々の患者と家族が抱える心理社会的課題に関心をもち、患者と共に家族が抱える葛藤や苦悩を理解し感情を表出できる機会の提供が必要であると考える。本研究対象者が抱えていた妊孕性に関する課題について、がん生殖医療に対する支援体制についての整備は進みつつあるが、がん・生殖医療に関する教育は、がん看護の基礎教育、専門教育、継続教育、どの看護教育領域においても不足している状況にある(森,2017)と述べている。造血細胞移植に携わる看護師もがん生殖医療に関する知識を学ぶ共に、患者と家族の思いを受け止めながら生殖医療機関と連携できる体制づくりの強化が課題であると考える。

Ⅵ 本研究の限界と課題

本研究は、対象者9名の体験であり、慢性GVHD発症からの経過が2~15年と幅があったこと、患者家族の年齢も20~80代であり条件にばらつきがみられたことが本研究の限界である。今後は、慢性GVHDの重症度や発症からの経過年数などによる違い、家族の立場による違いなどを明らかにすることが課題である。

Ⅶ 結論

造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者を支える家族は【命があることに感謝する体験】【慢性GVHDの不確かさに苦しむ体験】【思い描いた未来が阻まれる体験】と共に【家族として支える覚悟をもつ】【今を大事に家族としてできることを模索する】【対立しないように距離をとる】【感情を吐露する】【患者以外の他者と体験をわかち合う】といった取り組みをしていることが明らかとなった。家族は、先の見えない経過をたどる中で患者の回復を願い、家族として何ができるのかといったことを考え続けていた。さらに患者の状況がとらえ切れないことにより不安や苦痛を感じていることが明らかとなった。

謝辞

本研究の主旨を理解し、貴重な体験を語ってくださった協力者の皆様と関係者の皆様に深く感謝申し上げます。本研究は、科学研究費助成事業(若手研究B)の助成を受けた研究の一部である。

References
 
© 2022 日本移植・再生医療看護学会
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