日本を含む極東アジアに広く分布するメボソムシクイについては,亜種の帰属を初め未解決の問題が多く残されており,解決には国境を越えた協力と基礎資料の収集が待たれている.この度,カムチャツカ(同半島中南部ビストラーヤ川源流部)における日露共同調査に一員として加わり,本種の渡りや外部形態等について資料を収集する機会を得たので,これまで新潟市で得た未発表資料にこれらを加え,形態形質や渡りを中心に,亜種問題を含めて検討を行った.新潟海岸では例年初夏(5月下旬~6月中旬)に顕著なメボソムシクイの渡りが見られ,これらは,国内で繁殖する亜種メボソムシクイPhylloscopus borealis xanthodryasではなく,極東ロシアなどで繁殖する基亜種コメボソムシクイP. b. borealisと見られてきた.新潟海岸で得られた2例の国内回収事例は,その名称や帰属はともかく,捕獲時期や移動速度から推して,カムチャツカ半島における本種の移動や繁殖時期と軌を一にするものであった.また,新潟とカムチャツカで得た多数の個体について,分子手法による性判定を行った上で体各部の計測データを比較した結果,計測値(初列風切最外側長と初列雨覆最大長の差,翼式,翼帯と関連する大雨覆斑の数など)は,その範囲が大きく重複した.これらの結果と,囀りの相違や最近行われた分子生物学的結果とを合わせて総合的に判断すると,今回新潟とカムチャツカ半島で調べた個体は亜種メボソムシクイP. b. xanthodryasや基亜種コメボソムシクイP. b. borealisではなく,亜種オオムシクイP. b. examinandusに該当する可能性が極めて高いことが明らかになった.