抄録
術前呼吸ケアの目的は全身状態の改善および術後の重篤な肺合併症を予防し早期離床を達成することである。このため術前評価と術後合併症を予測し,術式による呼吸機能障害の程度を把握する。喫煙者は非喫煙者と比較して有意に術後肺炎の発症が多いため少なくとも術前1カ月以上前に禁煙させることが推奨される。気道クリアランスについてのシステマチックレビューでは排痰法の有用性についての高いエビデンスは示されていない。このため個々の排痰法は患者の病態に合わせその利点,欠点を理解し施行することが重要である。またインセンティブスパイロメトリーは手術後に日常的に使用されているが,術後の有用性について高いエビデンスは示されていない。ところで肺癌,食道癌,頭頸部領域の癌は喫煙との関与が濃厚でありchronic obstructive pulmonary disease (COPD) を合併していることが多い。COPDにおける気流制限と術後肺合併症の頻度は関連するため,COPD合併例では術前から呼吸機能の改善も含めた包括的な呼吸ケアを実施する意義は大きい。これまで術前からの吸気筋トレーニングを含めた呼吸ケアは術後肺合併症を低下させることが多数報告されている。今後は質の高いエビデンス構築が必要である。