膿瘍切開術を施行した深頸部膿瘍症例において気管切開術の併施に影響する因子を検討するため,当院で経験した36症例を対象に身体所見,画像検査所見等と実施された術式について集計した。その結果,全36症例のうち20症例に対して気管切開術が実施されていた。また術前造影CT画像において,副咽頭間隙・内臓間隙・頸動脈間隙・咽頭後間隙(「特定4間隙」と呼ぶ)いずれかに膿瘍形成を認める症例は,これらに膿瘍形成がない症例と比べて統計学的有意に喉頭浮腫を認める割合が高く(p<0.01),気管切開術を併施している割合も高かった(p<0.01)。さらに,「特定4間隙」の中で,膿瘍形成が3間隙以上の症例は,3間隙未満に限局して存在する症例と比べ,統計学的有意に気管切開術を併施している割合が高かった(p<0.01)。深頸部膿瘍症例の術前造影CT画像において,舌骨下へ拡がりかつ喉頭に隣接した間隙である内臓間隙・頸動脈間隙・咽頭後間隙および,それら間隙への重要な起点となる副咽頭間隙における膿瘍形成の有無を正確に評価することは,適切な気道管理の一定の指標になると考えられた。