2023 年 74 巻 4 号 p. 313-318
脊索腫は胎生期における脊索の遺残組織に由来するまれな悪性腫瘍であり,頭蓋・脊椎に沿ってあらゆる部位に発生する。頭蓋底と仙骨部に多く,胸椎原発の報告例は非常に少ない。今回,われわれは頸部外切開にて切除した極めてまれな胸椎原発脊索腫の1例を経験したので,術中所見,術後治療や合併症などについて文献的考察を加えて報告する。症例は50歳代女性,1カ月前から右頸部腫瘤を自覚し,当科を紹介され受診した。右鎖骨上に可動性不良,弾性硬の腫瘤を触知し,CT/MRIで甲状腺右葉下極から上縦隔まで進展する腫瘍性病変を認めた。穿刺吸引細胞診では唾液腺腫瘍や神経鞘腫が疑われ,頸部外切開にて切除をおこなう方針となった。術中所見では腫瘍は椎前部と連続しており胸椎前面から発生していると考えられた。永久病理では粘液性基質を背景として好酸性胞体を持つ担空胞細胞が索状に増殖し,免疫組織化学染色ではAE1/AE3がびまん性に陽性,EMA, S-100蛋白が部分的に陽性で脊索腫と診断された。切除断端陽性と判定され,術後陽子線治療を施行した。治療後9年経過しているが再発を認めていない。脊索腫では切除と術後陽子線治療の有用性が報告されているが,再発や照射に伴う晩期合併症のリスクがあり,治療後の厳重な経過観察が必要である。