日本釀造協會雜誌
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合成清酒の研究 (第三報)
合成清酒の火落豫知の方法に就て
松井 久夫高橋 玉置森 孝三
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1941 年 36 巻 10 号 p. 801-793

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抄録

1. 清酒は燐ウォルフラム酸, 醋酸ウラニウム, 醋酸鉛, 鹽基性醋酸鉛, 昇汞, 硫酸水銀, 燐モリブデン酸の水溶液を添加する事によつて沈澱ができるが, 合成清酒は同樣にして沈澱ができるものと否どがある。
2. 上に擧げた試藥によつて沈澱するものは主として低級のペブチード, アミノ酸を除く高級の窒素化合物であるから, この沈澱の程度によつてその合成清酒中の高分子蛋白質分解産物の量を推定する事ができる。
3. 合成清酒の腐敗の原因である火落性乳酸菌は窒素榮養としてペプトンの樣な高分子の蛋白質分解産物を好んで同化する性質があるから合成清酒が腐敗し易いか否かは高分子蛋白質分解産物の含量によつて殆んど定まる。故に前記の沈澱劑を用ひて合成清酒に沈澱を起させ, その量を測定する事によつてその合成清酒が腐敗し易いか否かを事前に推定する事ができる。
4. 昇汞によつては濁度 (炭酸石灰標準液) 4以上, 燐ウォルフラム酸によつては濁度5以上のものは殆んど確實に火落性乳酸菌の増殖可能であり, 温度1~2のものも往々にして火落性乳酸菌の増殖する處となる。濁度0のものは殆んどこの懸念がないと見てよい。
5. 火落性乳酸菌増殖防止の目的に對してはサリチル酸は石當り5匁程度から効果が見られるが確實に防止するには少くとも九匁を要する。
6. 以上の結果を製造法の方面から考へるならば, 單純配合 (純合成) のものは火持量も良く, 此に酒粕を少量混和乃至懸垂したものがそれに次ぎ, 清酒又は清酒醪を1~2割混和する程度のものは火落に對して先づ安全圏内にあるが, 3割以上は既に危險である。特に白糠を原料とした配, 醪等を多量に使用すうものは火落菌の好餌となる故絶對に避けるべきである。
尚この研究は山田正一博士の御懇篤な御指示と御指導との下に行つたものである。此處に謹んで深甚の謝意を表する。

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