日本釀造協會雜誌
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米麹のプロテアーゼに関する研究 (第5報)
酒造工程中におけるプロテアーゼの消長
布川 弥太郎難波 康之祐渡辺 捷栄
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1961 年 56 巻 9 号 p. 930-925

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抄録

清酒醸造において米麹の占める役割は非常に大きいのであるが, それは主として米麹のもつアミラーゼ力に依存していると考えられる。併し清酒の香味を論ずる場合には, 米麹中に存在する蛋白質分解酵素のもつ意義を無視するわけにはいかない。
清酒醸造と米麹プロテアーゼを結びつけて研究した報告は割合に少なく, 酒母中の窒素物とプロテアーゼの関係を論じた蔭山, 杉田等, 秋山らの研究, 醪中のプロテアーゼの消長を調べた栗山らの研究が報告されているに過ぎない。著者らもプロテアーゼを多く生成させる為の米麹の培養条件を検討した結果, 低温で培養した麹の方が力価の強い事を見出し, 濃味のある清酒を醸造する為には低温培養麹を使用すべき事を提唱し, 又醪中のプロテアーゼの消長を追跡し, 酸性プロテアーゼ醪期間中比較的安定である事を認め, 更に酒母中における米麹のプロテアーゼ系の消長をpH作用曲線により検討し, プロテアーゼは酒母中においてもかなり安定である事を知った。
さて, 著者らは醪中において酸性プロテテーゼのみが安定に残るのであるが, それは電気泳動的に明らかに異る種の酵素として出現する事を見て居り, 山本, 森本らも麩麹について2種の酸性プロテアーゼの存在を証明し, 更に森本らによって米麹抽出液について酸性プロテアーゼの多様性が認められ, これは最初単一と考えられる酵素がtransformationを受けていくつかの成分に遂次的に変化するすものであろうと推定された。かくの如くpH3.0に至適pHを持つ酸性プロテアーゼであっても数種の成分として存在する事が明らかになったのであるが, 前記の如き至適pHにおける力価測定やpH作用曲線によるプロテアーゼの消長追跡によっては, 果して酒造工程中における酸性プロテアーゼが性質の変化を受けて行くものであるかどうかといった事を調べる事は出来ない。更にはプロテアーゼ相互間の影響力を避けて検討を進める為にも夫々のプロテアーゼを単離して検討して行く事が要求されるに至った。著者らはDEAE-celluloseを用いて米麹という非常にプロテアーゼ含量の少ない材料からプロテアーゼを分離濃縮する方法を設定した為酸性プロテアーゼ系**及びアルカリ性プロテアーゼを分離する事が容易になったので, 酒造工程中即ち製麹からはじまって上槽に至るまでの各段階について, 試料から夫々酸性及びアルカリ性プロテアーゼを分離濃縮し, 更に電気泳動を行って, 各プロテアーゼの性質が途中で変化して泳動図に変化を来たすか否かを調べた。

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