日本釀造協會雜誌
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泡なし酵母に関する研究 (第7報)
各種の保存株より優良泡なし酵母の選択
秋山 裕一熊谷 知栄子田中 良彦大内 弘造
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1971 年 66 巻 5 号 p. 516-522

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抄録

筆者らがこれまでに分離報告した泡なし酵母は発酵力, 香り, 多酸性の諸点で実用酵母としてやや劣る。しかし, 仕込が大型化している今日, 優良な泡なし酵母の開発は必要であろう。
筆者の一人熊谷は顕微鏡下での気泡への酵母菌体の吸着性において, 高泡酵母はよく吸着し, 泡なし酵母は全く吸着しない事実を見出した。この性質を泡なし酵母選択の第1次の手段として利用し, 各種の実用酵母1,000余株について検討した。ついで小もろみでの泡立ちと発酵試験を行ない, 発酵力と香りとを比較検討した。もろみ濾液の屈折率は比重およびアルコール分とよく相関することから, 発酵力の比較選択試験法としてはアッベ屈折計を利用すると簡便である。
これらの選択試験の結果, 清酒酵母から2株, ブドウ酒酵母1株, パン酵母2株, しょうちゆう酵母1株を有望株として選出し, 中間工業的な仕込試験を行なった。この結果, No.312 (清酒酵母協会2211号) が実用性のある酵母と認められたが, 他は夫々特有の香味があって, 現今での清酒醸造用の酵母としては問題があると思われた。
清酒酵母931株のうちには泡なし酵母はごく少なく, 3.5%に過ぎなかった。その香味は既報のA-63やS-139に類似のものが多かったが, 協会2211号株を実用性のある酵母と認めた。
ブドウ酒酵母88株中76%が泡なし性であったが, もろみの香味は酸味を感じるような特異なものが多かった。
パン酵母100株中80%近くが泡なし性であったが, 香味はパン臭あるいは糊臭がして, 優良なものは選択出来なかった。
しょうちゅう酵母 (32株) も殆んど泡なし性で, 発酵力も強かったが, もろみに木香, アルデヒド類似の臭があり, 良好な株は得られなかった。

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