日本釀造協會雜誌
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ケルプおよびはとむぎ使用味噌醤油醸造試験
(第2報) 醤油醸造試験
西島 英雄永瀬 一郎萩原 義秀官内 徹二北川 善勝
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1980 年 75 巻 9 号 p. 739-744

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抄録

以上の試醸成績を総合して, 若干の考察を試みて, 結論を引き出すと, 次の通りである。
(1) はとむぎは, 澱粉質原料として小麦の代りに醤油の醸造に使用された場合, 原料処理および製麹の難易という点では, 小麦と比べて全然劣るところがなく, 出麹の酵素力もあまり変らず, また諸味になってからのはとむぎ成分 (特に澱粉) の分解溶出の度も良好で, それにつれて諸味の発酵状態は極めて旺盛であり, 最終的には小麦使用の場合と比較して全く優劣のない立派な品質の醤油を醸出し得ることが, 確実に認められたから, 価格や微量栄養元素の点は別として, 小麦同様の良質原料であると断言出来る。
(2) 使用食塩量の2/3までをケルプで代用してみたが, 麹黴の分泌した酵素類, とりわけプロテアーゼとアミラーゼの分解作用に対して, ケルプは全くこれらの邪魔になっておらず, また, 醤油酵母や醤油乳酸菌などの発酵微生物の増殖および活動に対しても, ケルプは全くこれを阻害しないばかりか, 低食塩量という理由も手伝って, 却って原料成分 (特に蛋白質) の分解溶出の度は大いに助成され, ために醤油麹の溶解は頗る促進され, また発酵菌 (特に酵母) の増殖が助けられて, そのために諸味の発酵が著しく推進されるという, ともに醤油醸造にとって大変有難い好成績がもたらされたので, これらの面でのケルプ使用の危惧は全く払拭された。
(3) 更に, 得られた醤油の品質の面より, 2/3ケルプ代用の是非を検討した時, 色, 味, 香の3面より見て, 普通の醸造醤油に比較して何等の遜色も認めないと称して過言ではない。特に最も気掛りとした苦味, イヤ味, アク味などの不快味の徴候が少しも現われなかったのは, 些か意外とさえするところであった。ケルプ中に存在する土類金属イオンおよび重金属イオンによる上の不快味が, 製品に認められなかった理由については, 今回は特に研究しなかったので, 確実に断言することは出来ないけれども, 思うに, 上記の諸イオン類は, 諸味の熟成中に大豆のフォスファチドおよびはとむぎのフィチンなどより遊離した燐酸と結合して, 不溶性の燐酸塩に変形して除去されるためではないかと推測される。

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