日本醸造協会誌
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製麹工程における清酒麹の香りの変化
高橋 美絵磯谷 敦子宇都宮 仁中野 成美小泉 武夫戸塚 昭
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キーワード: 清酒麹, 製麹, 香り
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2007 年 102 巻 5 号 p. 403-411

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抄録

製麹工程における麹の香りの変化を明らかにした。
1.製麹工程中の香りは, 麹らしい香りの全体的強度, キノコの香りの強度は経時的に増加する傾向を示し, 甘い香りは出麹時に最も強くなり, 栗香は出麹以降に強くなることが認められた。
2.栗香については, Phenylacetaldehydeが床もみ後40時間で最大となり, 1-Octen-3-one, 1-Octen-3-olは菌体量の増加とともに44時間から49時間の出麹にかけて約2倍に増加したことから, これらの成分のバランスで栗様の香りになるものと考察した。
3.製麹工程において麹中のアミノ酸は出麹に向けて経時的に増加する傾向を示したが, 香気成分の前駆物質と考えられるアミノ酸 (Val, Leu, Met及びPhe) において固有の動向は見られなかった。
4.製麹工程における脂肪酸の動向を検討したところ, 脂肪酸は菌体量の増加, 菌体外タンパク質量と共に増加する傾向を示し, 脂肪酸は麹菌の増殖の指標となると考えられた。
5.リノール酸を基質として麹から抽出した粗酵素液を反応させたところ, HOD及び1-Octen-3-olの生成が確認された。1-Octen-3-ol生成酵素活性は製麹後半 (リノール酸の増加開始約4時間後付近) で約10倍高くなり, 基質であるリノール酸に制御されていることが示唆された。
6.1-Octen-3-olを基質として粗酵素液を反応させたところ, 1-Octen-3-oneの生成が確認された。1-Octen-3-one生成酵素活性は盛仕事以後の製麹工程中において一定であり, 香りに強弱がある麹間においても差は認められなかった。
7.製麹後期の麹の香りは, リノール酸を前駆体として生産されるものであり, この香りを製麹管理及び麹の品質評価の指標として活用できることが確認された。

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