熱傷
Online ISSN : 2435-1571
Print ISSN : 0285-113X
原著
広範囲熱傷患者における人工真皮の有用性
吉川 慧海田 賢彦山口 芳裕
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 47 巻 4 号 p. 126-131

詳細
抄録

 【はじめに】広範囲熱傷患者の治療における同種移植片の有用性には論を俟たないが, 災害時に多数の熱傷患者の発生が想定される本邦におけるその僅少在庫量を慮ると, 人工真皮を最大限に活用する広範囲熱傷患者の治療に習熟しておくことはきわめて意義の大きなことといえる.
 当施設においては2015年8月, 日本スキンバンクネットワークの活動停止を契機として人工真皮を積極的に活用し, その有用性を検証してきた. 2016年には総熱傷面積 (total body surface area : 以下TBSA) 96%熱傷患者, 2017年にはTBSA 86%熱傷患者に対し, 同種移植片を使用せず人工真皮を最大限に活用することにより救命に成功した. 人工真皮単独使用によるTBSA 80%をこえる広範囲熱傷の救命例を踏まえ, 重症熱傷患者に対する同種移植片と人工真皮の使用に関する後方視的検討から広範囲熱傷患者における人工真皮の有用性について報告する.
 【対象および方法】2008年4月から12年間に当施設に入院した熱傷患者のうち3日以内の死亡例, 気道熱傷単独例をのぞいたTBSA 30%以上の広範囲熱傷計43例について, 同種移植片単独使用群と人工真皮単独使用群の2群に分け, 年齢, TBSA, Ⅱ度熱傷面積, Ⅲ度熱傷面積, burn index (以下BI), prognostic burn index (以下PBI), 気道熱傷合併率, 受傷後1週間以内, 2週間以内の菌血症合併率, 菌血症発症日, 死亡率, ICU滞在日数について後方視的に比較検討した.
  【結果】同種移植片単独使用群と人工真皮単独使用群の2群比較においてBI, PBI, 気道熱傷の合併率などの重症度に差はなく, また予後についても有意な差は認めなかった. さらに受傷後1週間以内, 2週間以内の菌血症合併率, 菌血症発症日といった感染面の指標に関しても差は認めなかった.
 【結語】広範囲熱傷患者において人工真皮は同種移植片と同等の効果が期待できる可能性がある.

著者関連情報
© 2021 一般社団法人 日本熱傷学会
前の記事 次の記事
feedback
Top