鍼の臨床研究には未だ解決されていない方法論上の問題が存在する.薬剤のランダム化比較試験 (RCT) でいうところのプラセボ錠に相当するものとして,偽鍼群や偽経穴刺鍼群を設定している鍼の RCT は近年多く実施されるようになった.しかし偽鍼は皮膚に触圧刺激を与えたり鍼を浅く刺入したりしているため,プラセボ錠と同等のものと認識することは適切でない.最近では現時点で最も日常的に行われている治療法よりも,それに鍼治療を加えたほうが効果的かということを検証した pragmatic RCT も推奨されている.
何を対照群として臨床試験を行うかという点だけでなく,国による偽鍼群設定の妥当性の違いや,非経穴刺鍼による治療効果など,鍼灸の RCT には多くの未解決の問題がある.最近では欧米でも,鍼灸独特の環境によって生じる効果も含めた評価の必要性を示唆する研究者も現れるようになった.
鍼灸,特に鍼治療が安定して医療の中に位置づけられるためには,論理的にも臨床的にも妥当な研究方法論によって有効性・安全性・経済性のエビデンスが示されなければならない.同時に,現在の研究方法論が鍼灸の本質を正しく評価しているかどうかについても再検討してゆく必要がある.